夏の疲れを癒すハモ料理

 

 
 大変な下準備がいるハモやけど、うまいハモにありつくにはさらに続きがあるんぜ。わしは夏場のハモは梅肉であっさり食べる湯引きがいちばん好きなんよ。やけど、この湯引きも上手にせんとハモが台無しになるんよ。
 
 まず、ザルに骨切りしたハモを一口大に切って、皮目のほうを下にして三つ四つきれいに並べる。それを沸騰した湯に入れるんやけど、ざぶんと全部を入れてしまわんこと。まず最初に皮だけを五、六秒つけて、その後に身まで浸して三秒ぐらい。身は湯に入れたら花が開くようにパッと広がるけん、その瞬間に湯からあげなんだらいかん。あげたらすぐ氷水にさらす。そのままほっといたら余熱で身が蒸せてしまうけんな。このタイミングがちょっとでも狂うとどんなにええハモでもダメになってしまうんよ。
 
 ちょっと早めにあげて湯通しが浅かったら生臭さが残るし、逆に火が通りすぎたらハモ本来の味や歯ごたえがなくなってしまう。どんな素材でも火の通し方は大事やけど、とくに湯引きはやり方次第でおいしくもまずくもなる。火の通り具合ひとつで味が決まるけん。丁寧に料らんと(料理をしないと)うまいもんは食べれんよ。
 
 ちょっと食欲がないときは蒲焼きがおすすめよ。たれはアナゴやウナギと同じ。たれの香ばしい香りとハモのあっさりとコクのある旨みは飯がすすむぜ。関東はアナゴやウナギは蒸し焼きするんかいな。ハモの場合、蒸し焼きは無理よ。骨切りしとるけん、蒸してしもたら身がぼろぼろになってしまわい。
 
 たいだい蒸して料理するのは脂を落として、骨を柔らかくして食べやすくするためやけん、ハモの場合は不要よな。身はあっさりしとるし、骨切りしとるけん骨は感じんのやきん。
 
 うちではアナゴもウナギもハモも生のやつに串をうってから焼きはじめて、五分くらい焼けたらたれを三、四回つけて焼いて仕上げる。さくっと香ばしいよ。ハモは湯引きしか食べんという人も食べてみて欲しいな。
 
 ハモにはもうひとつ、夏バテにおすすめの食べ方があるんよ。
 
 土瓶蒸し風のハモ鍋よ。暑い時期に鍋はちょっと暑苦しいと思うかもしれんけど、これが不思議とむしむしと暑い日こそ食べとうなるんよ。
 
 鍋のスープはハモのアラと昆布で出汁をとる。ハモ自身のあっさりした甘みのある甘みだしに昆布のうまみ成分が交わってつかみのある味わいになるんよ。身を鍋に入れるときは湯引きとおんなじように、丁寧に入れてやらんといけんよ。まず鍋に野菜を入れておいて、いざ食べるときにハモの身をサッと鍋につける具合。ぐつぐつ煮てしもうたら身が壊れてボロボロになってしまうけん。しゃぶしゃぶほど早く鍋からあげるタイミングではないけど、しゃぶしゃぶに近い気持ちで。野菜からもいいだしが出てどんどんスープにうまみが加わってくるぜ。
 
 鍋はハモの身のコシがいちばん味わえるんよ。考えてみて。普通の魚やったら一ミリ単位で包丁をいれたら、身がバラバラになってしまうけど、ハモは身が崩れんのやけん。もともと、身に弾力があってしっかりしとるんよ。
 
 最後は雑炊もうまいけど、わしは決まってうどん。さぬき(うどん)が大の好物でな、こしのあるさぬきにこのハモ鍋のスープは最高の相性なんよ。
 
 ハモはあっさりしとって、精が出るという感じでもないけど、この鍋を食べると元気が出てくる。わしは毎年夏の疲れをとるんに食べるんよ。
 



最後に雑炊にしたバージョンのハモ鍋。今回はハモの子を入れて親子雑炊で締めました。

夏の風物詩・ハモの背ビレ抜き

 

 
 台風の季節がきたら、ハモの出番よ。蒸したうっとうとしい日にむつこい(脂っぽい)もんは食べたくなかろ。そんなときにはハモがいちばん。あっさりした中に甘みのあるハモは酒の肴にもってこいよ。
 
 ハモはアマテガレイやスズキ、コチなんかといっしょで、旬じゃないときと旬のときの差が激しいんよ。旬じゃないときは水っぽくて全然だめ。見た目もおいしくない時期のは灰色がかっとるけど、ええときのやつは全体的に黄色っぽくなって、身がよう肥えとるけんすぐわからい。大きいという意味じゃないよ。サイズは小さくても身がぷりんぷりんしとるということ。体が大きいだけで身が肥えてないのは大味なだけやけん。
 
 ハモはなんといっても、その上品な味わいが魅力よ。ウナギのようなむつこさがないし、アナゴのような臭みもない。ただ、調理が素人には難しいんよな。
 
 ハモが骨がましい魚じゃというのは知っとるやろ。こいつを食べるには骨切りが肝心よ。皮目のギリギリまで小骨があるけん、そのギリギリまで包丁を入れんといかん。しかも一ミリ間隔でな。でもこれは慣れてくればそんなに難しいことではないんよ。千切りといっしょで切れる包丁さえあればできるようになる。
 
 大変なんは背ビレを抜く作業よ。最初に体のぬめりを包丁でとっておく。ぬるぬるしとったら何もできんけん。それからしっぽのほうの背ビレに切れ目を入れて、体のほうをまな板に指で押しつけるようにして、反対の指と包丁で背ビレを持って抜いていくんよ。背ビレは一本一本、ピンが身にささっとるようについとるけん、うまくいけば連なってとれていくけど、途中で背ビレが切れてしもうたり、肝心の骨が抜けんかったりして、なかなかうまくいかん。失敗したら骨抜きで一本一本抜かんといかん。この作業はしめてから五、六時間経ったころがいちばんやりやすいけど、それでも活きのええやつほど身がよう締まっとって難しい。とにかく、ハモに慣れとる人じゃないと、普通の板場でもようせんぐらいやけん。
 
 この背ビレ抜きのやり方はいろいろあって、わしがやりよるこの方法は京都風。身が傷まんように体を開くまえにそれをやるんよ。大阪風は先に開いてから背ビレを抜くやり方。どっちも結果的にはおんなじで手順の違いだけやけど、京都風のほうが大切に扱うけん、時間も手間もかからいな。
ハモの料理はすべてこの背ビレヌキ+骨切り作業から始まる。夏の味を楽しむにはちょっとした苦労がいるんよ。

夏バテ解消にはアナゴ

 

 
 夏バテ解消といえば、土用の日にウナギを食べると相場は決まっとる。けど、うちはアナゴを食べる。ウナギはむつこかろ(脂っぽい)。そこがええんやけど、うまいうまいいうて食べられるんはせいぜいひと切れかふた切れが限度よ。その点、アナゴやったら五本でも六本でも食べれる。ようけアナゴを食べて、ようけ飲んで、ようけ寝る。夏バテにはそれがいちばんやけん。
 
 アナゴはあっさりしたなかに、独特の風味があって、身の甘さもある。こいつは年中大きく味が変わることがない魚のひとつやけど、夏場のアナゴはほどほどに脂のノリがええんよ。
 
 まずアナゴを開いて準備する。キリで頭をまな板にスパンと固定するのがコツよ。背からスッーと包丁を入れて一枚に開いて真ん中の骨をそぎとる。ハモに比べたらカンタンよ。素人でも難なくできらい。骨はちゃんと捨てずにとっておかんといけんよ。この骨からええだしが出て、うまいたれが作れるけんな。
 
 七輪に炭を入れて火の用意ができたら、最初に焼くのは骨。軽くあぶると骨から脂が出てくるけん、それを砂糖、酒、みりん、しょうゆ、水飴を合わせたたれの中にジュっと入れる。骨から香ばしいうまみがしみ出てコクのあるたれになるんよ。
 
 たれの準備ができたら本番のアナゴを焼く。まずはそのまま皮のついとるほうから。身の側も焼いて両面ちょっと焦げ目がついたら、たれにつけて再び両面。何回かこうやって繰り返して香ばしくカリッと焼くんよ。たれをつけとるけん、ちょっと目を離したらすぐ真っ黒に焦げてしまうぜ。
 
 こうやって、身をつけつけしていくと、たれのほうにもアナゴのうまみが入ってどんどんコクのあるたれになるんよ。このたれだけで、いくらでもごはんが食べれらい。
 
 焼き上がったアナゴは切らずに、一本まるままをかじって食べる。そんな上品なもんじゃないし、このほうがようけ食べれるけん。最後にはごはんの上にのせてたれをかけてアナゴ丼。ウニもそうやけど、ごはんと食べると甘みがたってまた違う味が楽しめるんよ。
 
 うちではアナゴを焼くときはいっぺんにようけ焼くんよ。余ったアナゴは次の日に巻き寿司やちらし寿司に入れたりして使えるやろ。寿司はアナゴが入っとるのと入ってないのとでは、雲泥の差があるけんな。茶碗蒸しに入れても風味が出て豪華にならい。
 
 刺身が好きな人には、アナゴのあらいもおすすめよ。薄く切って氷水であらって梅肉かみがらし(酢みそ)で食べる。しゃっきり、あっさりしとって食感もええぜ。
 
 もうひとつのおすすめは、湯ざらし。ひと口サイズに切ったアナゴをお湯で三分くらいゆがく。それを冷やしてみがらしで。これもあっさりしとるし、あらいより甘みが感じられるけん、つまみの一品にならい。
 
 アナゴは安いし、日保ちもするし、今の時代にはけっこうええ素材やと思うぜ。

ウニがご馳走のワケ

 

 
 ウニを採るには潜ってひとつひとつ採るしかない。ウニは石の下におるけん網とかではかからんけん。わしが採るムラサキウニは海の底が砂地で、そこにポツンとある石の下におるやつが身が太くてええウニよ。底が石ばっかりのところにおるやつはなんでか、ようない。身がうすいか、小さいか、なんよ。
 
 海水浴をしよるような岩場で見かけるウニは、黒ウニ。ケンが長いやつな。あいつも割れば身が入っとるけど、味がなくてうまくない。
 
 ウニはちょっと値が高くて、普段に食べるというより、特別なときのご馳走という感じやろ。それは人が潜ってひとつひとつ採ったもんやから、というのもあると思うよ。人が一回で採れる量は限界があるけん、網でごそっと捕れる魚とはちょっと価値が違うんやないかな。それにウニは食べるようにするのに特別手間暇がかかっとるんよ。
 
 潜って採ってきたウニはそのままイガイガの殻ごと売っても金にならん。栗といっしょよ。でもウニの身は栗の実を出すよりずっと大変なんぜ。
 
 まず、殻を割る。どうやるかというと、真ん中にあるウニの口に長いステンレスの棒をふたつ突き刺して、てこの要領で、ふたつにきれいに割る。これにはコツがあって、棒を刺す力具合が弱いと殻に穴が開いてしまうだけで割れんし、力加減がうまくても、上手に真ん中に刺さんと割れ方によっては身がつぶれてしまったりもするんよ。身をつぶしてしもうたら潜って採ってきた苦労も水の泡やけんなあ。うちの子供が小学生のころはウニ割りの名人やったんよ。ウニの季節は学校帰りに必ずこのウニ割りをやらせよったけん。最近ではウニを割る専用の道具ができて、よいよ簡単にきれいに割れるようになっとるみたいじゃけどな。
 
 割ると殻の内側に沿うようにして黄色い身がくっついとる。ひとつのウニに身は五つ。タコの足が八本なんといっしょで、ウニの身は五つと決まっとるんよ。
 
 次にそのウニの身を出す。半分になったイガイガのウニの殻を片手でもって、もう片方の手で平らなスプーンみたいなもんで中の身をそいでいく。身を崩さんように丁寧にな。このときに身だけじゃなくて、内臓や身のまわりに黒いカスがついてくるけん、とりあえずこの段階では、身とカスは全部殻から出して、大きめの四角いバットに入れておく。
 
 面倒なのはこのあと。今度はパットに移した中身からカスとウニの身を分けていく。身しか見たことのない人には想像つかん状態やと思うけど、身の裏に黒いカスがくっついとるんよ。とり残しがあるかもしれんけん、今度食べるときに裏を見てみて。これを箸でひとつずつとっていかんといけん。これがほんとうに細かい作業でなあ。箸を器用に使えんとカスをとるときに身をつぶしてしまうけん集中よ。ほんと、肩もコチコチになるぜ。
 
 小さいカスもきれいにとって、やっと身だけになったところで、最後に箱に並べていく。
 
 これも柔らかい身をつぶさんように丁寧に箸でひとつずつつまんで、キレイに並べていくんよ。並べ方にもコツがあって、隙間ができんように箱の底が見えんようにひとつひとつの身の大きさを調節しながら上手においしそうに並べる。ふたを開けてみてスカスカやったり、身の並び方がバラバラやと、いっぺんに「よっさんところのは悪いウニ」というレッテルがついてしまうけんな。
 
 こうやってやっと市場に持っていけるんよ。わしが採るんはだいたい一日に箱七十から八十枚くらい。一枚につかうウニは六つくらいやけん、ウニは四百個から五百個とりよるということになるな。
 
 このウニ詰め作業は港の防波堤で家族そろってやるんよ。わしが漁から帰ってくる時間はちょうど子供が小学校から帰ってくる三時ごろ。子供は遊びにも行きたいやろうけど、遊びに行かすのはウニ詰めが終わってから。そりゃ、機嫌ようはなかなかやらんよ。ほんでも、こうやってひとつひとつのウニで家族は生きていけるということが自然と伝わるもんよ。どんなにすねとっても、ちょっと力を入れたらつぶれてしまうウニの身を大事に大事に扱うんやけん。
 
 さて、中身を出してしもうた大量のウニの殻。自然に戻るもんやけん、海に捨ててもええもんやけど、これを農家の人が欲しがるんよ。
 
 この殻を二週間ほど夏の天日にあたらせて干しておくとカラカラに乾くけん、それを金槌でたたいて粉々にする。この粉を畑にまくと、作物がおいしくできるんやと。つまり、肥料になるんよ。殻に海の栄養がつまっとんかな。こいつを蒔くと、土が肥えて、どんな作物も甘く立派に実る。スイカやかぼちゃ、トマトに大根。ミカンに伊予かん。どんなんにでも合うみたいよ。
 
 ウニが旬の季節は毎日のようにウニを採りよったけど、殻は次々に農家の人がとりに来て、全部のうなるんやけん。よっぽどええ肥料なんやと思うよ。ウニは全部利用できるし、お礼にできた野菜やくだものを持ってきてくれるし、持ってきてくれたもんもうまいし、自然のもんはやっぱりようできとらい。



甘い甘い真夏のウニ

 

ウニの旬は五月から八月のお盆ぐらいまで。
五月いっぱいは身がまだ細くて色もうすいし甘みも浅いんやけど、六月中旬ころからは身が太くなって甘みが増してくる。とくに七月に入ってからのウニは最高よ。オレンジ色がかった黄色が鮮やかになるんよ。ほんとに濃厚で、「このウニはうまい」とわかっておっても、ひと口入れるごとにいちいちその深い味に感心してしまうんやけん。大袈裟にいいよるんじゃないんぜ。ウニは十一月ころに産卵したら身がのうなって、冬の終わり頃から少しずつ栄養をつけて、五月に入ったころにやっと身らしい形ができる。やけん七月に入ったころは最高潮に栄養をたくわえとるんよ。あんまりに甘みが強すぎてほかの魚が食べれんぐらいじゃけん。
 
ウニそのものの味を楽しむのは刺身で食べるのがいちばん。でもウニの甘みがいちばん生きるのはウニ丼よ。ほかほかの白いごはんにごはんが見えんぐらいたっぷりのウニをのせて、わさびをといたしょうゆを少したらして食べる。ウニは寿司もうまいけど、わしはあたたかいそのままのごはんとのほうが相性がええと思う。まあ寿司の場合は酒のあてにもなるし、好みではあらい。
 
寿司といえば、寿司屋には一年中ウニがあるんよ。わしが食べよるんはムラサキウニやけど、こいつはさっきいうたように、お盆を過ぎたら産卵の準備に入って身に白い卵がつきはじめて、秋頃にはそれが苦くて食べれんようになるんよ。産卵後は身がのうなる。もちろん、北海道のバフンウニとか、九州のほうにおるガンガゼウニとか浅瀬におるケンの長い黒ウニとか、ウニにもいろんな種類があるけん、産卵の時期も違って、ムラサキウニとは違う時期に旬のやつを入れとるんやろうけど、それでも一年中はないと思うんよ。わしも何回かほかのウニを試したことがあるけど、正直、わしは夏のムラサキウニがいちばんうまいと思う。
 
うちの店は地元の魚しか扱わんというてやりよるんやけど、実は一回、夏場にウニがきれてしもうて、北海道のウニなら大丈夫やろうと思って仕入れたことがあるんよ。北海道のウニは北海道のウニの良さがあるんやけど、やっぱり違っとった。わしはムラサキウニの粒子が細かくて、表面がからっとしとって、もちろん乾いとるわけじゃなくて、口に入れたときの繊細な舌触りが好きなんよ。それ以来、どんなに漁が悪いときでも、伊予灘以外のウニや魚はいれんと心に決めたんよ。寿司屋の場合はどんなにまずくても、ウニがない、というわけにはいかんのかいな。
 
もうひとつ、ウニのことでいうておきたいことがあるんよ。ウニのことが嫌いという人がけっこうおるんよ。好き嫌いは人それぞれやけん、別に口出しすることではないんやけど、うちのウニを食べたら好きになる人も多いんよ。自慢したいわけじゃないんぜ。
 
ウニはやっかいなことに、上手に包装して冷蔵庫に入れとったら、二十日ぐらい保つんよ。ようもったら一ヶ月ぐらいはなんとか食べられてしまう。でもいくら日保ちがようても、海からあがって一週間以内には食べんと、風味もなにもあったもんじゃない。腐るわけじゃないけど日にちが経つと木箱の臭みと、ウニから出た汁がまじって臭くなってしまうんよ。もちろん、旬をはずれたウニも、食べれたもんじゃない。
 
もし、ウニが嫌いな理由がそういうことなら、もったいなかろ。知ってほしいんよ、ほんとうにうまいときのウニを。やっぱり、生きとっていちばんええんはうまいもんを食べることよ。わしが店をはじめたのも、うまいもんを食べてほしいからやけん。