休みの日にはタチウオ釣り

 

 
 漁師の休みは、海に出れん日よりの悪い日と土曜日。関西や関東の中央市場が日曜に休むけん、こっちの市場は前の日の土曜が休みなんよ。休みというても網を直したり、船を洗ったり、船を陸にあげて色を塗りなおしたり、結構やることはあるんぜ。最近の日本人は休んでばっかりおるけど、もともと日本人は勤勉なんが取り柄やけん。土地も資源もない日本なんか、一生懸命働くことを忘れたらそのうちダメになってしまうぜ。
 
 まあやることはあっても、休みの日はそれなりに楽しんどる。
 
 夏の終わりから秋口にかけての時期は、タチウオがよう釣れるんよ。やけん、日よりのいい休みの日はタチウオ釣りに行く。タチウオは昼間は深いところを泳ぎよるんやけど、朝夕には水面ギリギリまで浮いてくる。たぶん、小魚を追って上がってくるんやと思うんよ。やけん、釣れる時間帯は朝まじめ(夜明け前から日が昇るまでの時間)と夕まじめ(夕暮れから日が沈んで暗くなるまでの時間)なんよ。
 
 わしが好きなんは朝まじめの釣り。早朝の薄暗い時間から海に出て一時間ぐらい、ひとりでだいたい四十から五十本は釣るよ。帰っても家族はまだ起きてない時間よ。それから釣れだち(釣れてすぐのもの)のタチウオの刺身を肴に、ひとりビールを飲む。これが最高なんよ。
 
 正直言うとな、タチウオは特別にうまい魚というわけでもないんぜ。ほんでも休みの日の朝に、自分が釣ったもんをこうやって好きなように食べるのがええんよ。
 
 狩猟する人やってほうやろ。キジ撃ちやシカ撃ちの人が、キジ鍋やシカ鍋をものすごいたいそうなこと、うまいうまい言うて食べるやろ。でもほんとうのところは牛肉のほうがよっぽどうまいはずよ。ただ、自分が難儀して捕ったもんやけん、何にも代え難いうまさがあるんよ。
 
 夕まじめに釣るときは子供や近所の人も乗っていくんよ。タチウオ釣りは船を走らせる漕ぎ釣りやし、たいてい釣れるけん面白いんよな。ただ釣れるとはいうても、釣り糸のしかけの作り方ひとつで、同じところをやりよっても十本ぐらいの人と、百〜百五十本くらいの人との違いがある。百本以上釣れるぐらい魚のおる場所ならわしのしかけは他の船に負けんぜ。いくら遊びというても漁師の意地があるけんな。
 
 そういう場所は針を落とす間がないくらい、ぼんぼんぼんぼん釣れる。ようけ釣っちゃろと思うときはひとりで二本しかけてやるけんな。
 
 タチウオ釣りが面白いのは数釣れるということもあるけど、「ひき」の強さもあるんよ。手でてぐすを持ってやるけん、直接手にぐいんとものすごい強いひきが伝わるんよ。わしは五本針でやるんやけど、五本ともにかかっとることもざらやけん。
 
 タチウオは歯が鋭いけん、針から外すときは首をしっかりもって気を付けんといけんよ。カミソリみたいなもんじゃけん、ちょっとでもまがったら(触ったら)スパンと切れてしまうぜ。
 
 このタチウオは釣りよる分にはええんやけど、問題は釣れたやつよ。わしは趣味で釣った魚はどんなにようけおっても絶対に市場で売ることはせんのよ。なんでかといわれても困るけど、遊びで捕ったもんやけん、売る気がせんというだけで、気持ちの問題よな。同じタチウオでも、漁で網にかかったやつは少のうても売るけんな。ほかの漁師も同じよ。
 
 そういうわけで、釣れたやつは近所の人や農家の人に配るんやけど、どこもそうようけは食べれんけん、百本釣れたら十本ずつでも十軒は配らんといかん。けっこう大変ぜ。まあ、お返しにいろいろ野菜とかみかんとかもらえるけんええんやけど。
 
 もちろんうちでも食べるよ。釣りの時期は毎日のように食卓に並ばい。
 新鮮なうちは刺身。釣りだちは身が硬いけん、包丁で目を入れて食べる。わしはこのコリコリしとるぐらいのが好きよ。タチウオの身は弱いけん、釣りだちのほうが食感がええんよ。おいといたらやおくなってしまう。
 
 塩焼きもうまい。塩と香ばしい皮と皮目の甘い脂、それにほどよく脂ののった身はジューシーでむつこくないけん、これは毎日食べてもそうは飽きんよ。
 
 もちろん、煮付けにしてもええし、唐揚げも合う。くせのない便利な魚やけん、ようけあってもいろいろに食べ方はあらい。
 
 北風が吹きはじめる秋口になったら一夜干しがおすすめ。三枚におろして、細長い身の部分だけを干すんよ。これが生のときにはない、深みのある味になるんよ。骨がなくてまるごと食べられるけん、子供のおやつにもなるよ。
 
 干しものは湿気がある時期はいかんぜ。何事もふさわしい時期を待つことが大事よ。
 


2012年9月15日