たち貝捕りは宝探し

 

 
 寿司屋に貝柱というネタがあるやろ。あれはたいていがたち貝(たいらぎ貝)という貝の貝柱よ。貝柱は二枚貝やったらどれにでもあるもんやけど、ふつうは身がメインにあって、内臓があって、貝柱がちょこんとあるぐらい。それがたち貝の場合は貝柱がメイン。ほかには内臓と内臓の周りについとるビラビラがあるぐらい。身が入ってないんよ。こういうのはたち貝だけ。
 
 昔、わしは潜りを主にやりよったんでな、知り合いから「下灘にはたち貝を捕りよる人がおらんけん、捕ってみたらどうぜ」と進められて、ほんならちょっとおかず程度に思って探してみたんよ。
 
 ほしたらこれが当たりでな。伊予灘はたち貝の宝庫やった。
 
 わしが捕りよったたち貝は長さが三十五センチ、幅が二十センチぐらいあって殻が大きかったけん、一時間ぐらい潜ったらすぐ満船になるんよ。満船というのは、船にこれ以上載りきらんぐらいようけ捕れることを言うんよ。満船になったら一旦船に上がって、船上で貝を開いて中身だけ抜いて殻は捨てる。で、船にスペースがでけたらまた潜って捕る。一日で三十から五十キロくらいは捕りよったかな。中身だけでぜ。貝の数でいうたら何百やそこらじゃないと思うぜ。数える間なんかないけん、はっきりはわからんけど。
 
 このたち貝はポツポツと集まっておるところもあれば、ものすごい数がそこら中におるところもあるんよ。やけん、一日、二日で捕ってしまう場所もあるし、毎日毎日捕っても捕っても一ヶ月ぐらいはかかる場所もある。一回だけ二ヶ月ほどかかったええ場所があったわい。
 
 たち貝は砂地とか砂利、だべ(粘土状の砂)のところやったらたいていのところにはおる。だいぶことおるんはキレイな砂地。でも、素人目では絶対によう見つけられんよ。砂の中に隠れとるんやきん。ただ、呼吸をしよるけん、砂地に模様ができとるんよ。その模様を見つけるんよ。
 
 宝探しみたいなもんで、とにかく虱潰しに潜って探すしかない。とはいうても海は広いけんなあ。一日で見つける場合もあれば、もっとかかる場合もある。下手したらいつまで経っても見つけられんということもありうる。
 
 例えば海に入って一生懸命探しても、見よるところのすぐ一メートル後ろに砂の筋があったとしても、前ばっかり見よったらよう見つけんしな。ダイビングをする人やったらわかると思うけど、海の中というのは迷宮のようなもんやけん。
 
 ほんでもわしの場合は当たりを見つけるのに、一日以上かかることはなかったぜ。こういうのは“勘”としか言いようがないな。
 
 たち貝は大きければ大きいほどおいしい。大きいやつは貝柱がしゃんとして歯ごたえがあるんよ。甘みも格別。小さいのはふにゃふにゃしとるし、味もうすいな。
 
 刺身、塩焼き、バター焼き。どうやってもうまいけど、わしは塩焼きが好きよ。香ばしい磯の風味に塩で貝柱の甘みが増して、酒に合うんよな。
 
 内臓も甘辛く煮たらええごはんのおかずになるぜ。ちょうど秋ぐらいはよう捕りよったけん、運動会のお弁当には貝柱といっしょにいつも入れとった。
 
 どうも子供らは貝柱が特別好きでなあ。貝柱ばっかり食べよった。わしはまあまあうまいとは思うけど、それほどには思うてないんやけどな。
 
 今はわしが潜りをやめてしもうたけん、下灘ではたち貝捕りよる人はおらん。教える気もないよ。
 
 海は漁師にとって宝物なんよ。自分しか知らん宝物のありかを他人に教えたりはせんもんよ。
 


2012年10月14日