北風がつくる一夜干し

 
 このあいだ、料理が出てくるテレビ番組で天日干しのひものが貴重で珍しくなってるとゆうておったけど、ほんとに情けない話よ。天日でほさんで、どうやってうまいひものがつくれるんよ。だいたいこれだけ季節によって風の変わる日本で年中ひものを食べようというのが無茶な話よ。
 
 ひものづくりには北風が吹く十月から十二月が最高の季節。乾いた風が魚のうまみを素早くぎゅっと閉じこめるんよ。一月二月の真冬に吹く北西の風も乾いとって問題ないけど逆にひものにええ魚がおらん。せいぜいアジぐらいのもんでな。
 
 わしがこのところ気に入っとるのは「エソ」「アマギ(エボダイ)」「アオリイカ」。こいつらは秋にしか捕れん。アオリイカは産卵にやってくる春先にもあがるけどその時期には風がふかんし、吹いても湿っとるけん。
 
 エソはかまぼことかの練りものに使われるもんで、市場で売ったらとろ箱ひと箱五百円くらい、一匹あたりでは五円くらいの安い魚よ。身はぐにゃぐにゃしとるし小骨も多いけん普通には食べれたもんじゃない。でもひものにするとこんなに繊細なうま味を出す魚はおらんぜ。小骨も気にならんようになるしな。
 
 エソというても、ルアー釣りなんかする人が釣ってバカにされる外道のエソとは別のもんなんよ。釣りの人がよう釣るのはウロコが硬いやつよ。こいつも骨がましくてあんまり食べるところはないけど、体半分からしっぽのほうにかけてなら骨も少ないけん食べやすい。塩焼きや唐揚げにすればけっこういけるよ。わしがいうエソは「ミズエソ」とも呼ばれるウロコがやおくて(柔らかい)小さいやつ。砂底に住んどるけん釣りでは釣れんのよ。
 
 アマギは生のまま煮付けや塩焼き、唐揚げにしても淡白なあっさりした味で好まれる魚よ。もともと身にそれほど主張がないけん、どんな料理にも合うし小骨も少のうて食べやすいんよな。それがひものにするとどこに隠れとったかと思うようなしっかりした味がでてくる。酒のつまみと思って食べとっても白いごはんが食べたくなるよ。
 
 エソやアマギに比べると格段に値のはるアオリイカは刺身で食べても甘みが強くて十分勝負できるんよ。それをあえてひものにするのはアオリが持つ底力に出会えるけん。その甘みになんとも香ばしい風味が加わる。
 
 わしはこいつを正月に食べるのが楽しみでな。店も漁もあるけん、一年でいちばんゆったり休めるのは正月ぐらいなんよ。年越しそばを食べたあとに、このアオリのひもので飲む酒はうまいよ。ただ、タイミングよう、正月前にアオリがあがらんときもある。それも自然のことやけん仕方がないわい。そのときは次の年までの楽しみよ。
 
 ひものは買ってでしか食べたことない人がほとんどやと思うけど、つくり方はけっこう簡単なんよ。エソやアマギのような小魚は背から開いて内臓をとっておく。アジの開きみたいにな。それをたて塩(海水より少し薄いくらいの塩加減)に十五から二十分くらいつけて干す。アオリイカは足のほうは半分にして開いて、身も一枚に開く。こっちは何の下味もつけずそのまま干す。
 
 ちょっと手間なのは干す場所かな。うちでは庭の電信柱の上に滑車をつけておいて、魚を並べた干し板(網戸のようなもの)をロープで釣り上げる。ちょうど干し板が地上十メートルくらいになるかな。低い場所に干すと蠅や.蜂がよってくるし、風も吹いたりやんだりするやろ。高い場所やと風が止まらんし、虫もよってこん。干すのは北風が吹く晴れた日がベスト。夜に干して朝日を浴びて午前十時くらいにはできあがる。もちろん干す時間は魚の大きさや厚みで変ってくるけん、その辺は適当にな。一夜干しは乾きすぎるとおいしくないよ。もちろん生のままでもいかん。手で表面を触って水気がつかんぐらいに乾いていれば大丈夫。
 
 焼くときは焼きすぎんように気いつけてな。水分がとんでしもたら、風味ががくっと落ちるけん。きつね色になるちょい手前が食べごろよ。小魚はそのままで、アオリはマヨネーズに醤油と一味とうがらしをかけたものにつけて食べる。
 
 ひものを保存食に考えとるところもあるやろうけど、わしの場合、おいしく食べるためのつくり方やけん、冷蔵庫で二、三日しか保たんよ。塩をもっと強くすればもっと保つけど、それじゃ魚の味が死んでしまう。保たせたいなら干してすぐ冷凍にすれは一ヶ月くらいはもつぜ。
 
 簡単といっても忙しい人には手間かもしれん。いまはスーパーで買ってくればしまいやしな。ほんでも売っとるやつはたいがいが辛いけん、わしはよう食べん。食べたい味がなければ自分でつくる。自分が食べたいもんを食べれるのは最高の幸せよ。
 

特製一夜干し装置(!?)


2012年11月9日