アイシャドウをつけた鯛

 
十二月から二月にかけては魚がうまくなる時期。寒いけん身がしまっとる、というわけじゃないんぜ。四~五月に産卵する魚が多いんよ。その産卵のために十二月から二月は栄養をためとる時期じゃけん、おいしいんよ。
 
鯛もその中のひとつ。鯛は鯛というだけで年中ありがたがられる魚の王様やけど、この時期の鯛こそ王様と呼ばれてふさわしいわい。まず見た目がキレイよ。海の底からあがってきたその華やかな輝きというたら、漁師にとってはダイヤモンド以上ぜ。普通の人が知っとる鯛の色というたら赤やと思うけど、鯛はしめた瞬間にパッと赤色に変わる。生きて泳ぎよるときはピンク色しとるんよ。その鯛が何百尾もあがってくると、青い海がふわっとピンク色に染まってそれは見事。この瞬間は何度味わってもええもんぜ。
 
もちろん、いつもそんな大漁というわけにはいかんよ。どこにでもおるわけじゃないけん、潮や場所によってどのあたりに鯛がおる魚礁があるか経験と勘でみつけるんよ。鯛を捕るのはローラごちという漁法で、網をおろして三十分くらいですぐローラを回してあげる。
 
手前味噌になるけど、わしの兄貴が鯛捕りの名人でな。鯛の水揚げ量はこの町いちばん。年間で二~三千万円分ぐらいは捕るかな。普通の漁師の倍ぐらいよ。多いときにはひと船で一日に五百キロは捕ってくらい。ただ、魚はどんなにようけ捕っても死なせてしもうては意味がない。市場に出すまでどれだけ活かしておけるかも漁師の腕なんよ。大漁じゃというてぼやぼやしとったら鯛が暴れてウロコが飛んでしもうたり、傷がついたりするけん、手早く網からはずして船の水槽に入れてやる。そしたらすぐさま一尾ずつ浮き袋をつやして(つぶす)上手に泳げるようにしてやらんといかん。鯛は二十~五十メートルぐらいの深いところにおるけん、急に船の上に引っ張りあげられたら浮き袋がパンパンにふくれてしまうんよ。そのままではバランスがとれんでよう泳がんけん、死んでしまう。この浮き袋をつやすのがけっこう技術がいるんよ。浮き袋は内臓の近くにあるけん、内臓を傷つけんようにせんと。かといってバカ丁寧に時間をかけとれんけんな。
 
陸(おか)に戻っても気を抜いてはおれんぜ。船底にある船の水槽は走っとる間は海水が入れ替わるようになっとるけど、止まるとその流れもとまる。鯛は水が変わらんと死ぬけん、すぐに海に下ろしてあるはりだま(大きな網)に全部をうつす。それから市場に持っていくためにリヤカーに載せたバッカス(活魚を入れるプラスチックケース)に海水を入れてはりだまから素早くうつす。それを大急ぎで市場にもっていく。バッカスには五、六キロのふといので六、七尾。一キロぐらいので二十尾ぐらいしか入らんけん、これを何往復もする。
 
市場では(仲買人)が一バッカスずつ値をつけていく。ウロコがはげてないか、顔や表面がすれてないか、しっぽまで肉付きはええか、というところを見て口々に値を言って、いちばん高値を言うた人に落ちる。値を言えるのは一つの箱につき一回だけやけん、商人も目利きがようないとええ商売はできんよ。とにかく、ここで値がつくまで活かしとかんことには、死んでしもうたら値が三割は下がるけん。それに死なせた魚は値だけじゃのうて味まで落ちてしまう。同じ魚とは思えんほどに変わってしまうんぜ。それがいちばんかわいそうよ。
 
目の上に青いアイシャドウがついとる鯛があがったときは特別気を付けんといかん。キラキラ光る青いきれいなラインがスーッと入っとる鯛は値がはる。そういう鯛があがるんは、ここの市場でも一、二%くらいよ。ほんとは洲口(川が海へ流れてくる場所)におる鯛はこのアイシャドウが入ったものが多いんよ。洲口には川からきれいな水が流れてくるけん、きれいな水にはエサも多くて、鯛も立派に育つんよな。やけど洲口には魚礁がありすぎて網がすぐに破けてしまうけんリスクが大きい。やけん、そこで捕る漁師は少ないんよ。
 
このアイシャドーが入った鯛は確実に味がいい。旬というても、どれもが百点満点の味をしとるわけじゃないけんな。同じところに住んどってもよう動いとるやつとダラダラしとるやつでは身のしまりが違うし、ようエサをつかまえるやつもおれば、鈍くさいさつもおるんやけん。それがこのアイシャドーのある鯛は百発百中、百点満点の味をしとる。つまり、味がいい証のようなもんよ。もうひとつの証は刺身を見ればわからい。鯛の刺身は外側が赤くなっとるんやけど、その赤みが強ければ強いほど、赤い部分が厚ければ厚いほどうまいんよ。こいつのはキレイで深い赤色をしとるぜ。身はアメ色で表面はピカピカしとって、醤油につけたらパッと脂が浮くくらい脂のノリ具合がいい。口に入れるとそのしっかりと締まった身はしなやかな舌触りで、噛むごとに濃い甘みが出るんよ。
 
食べようと思って食べられるもんじゃないけど、うまい鯛に出会ったらちょっと板場に聞いてみて。青いアイシャドーがあったかどうか。
 


2016年12月5日