勝負の魚・マナガツオ

毎年、十二月下旬から四月のあたまにかけては、マナガツオを狙う漁師にとっては年いちばんの稼ぎどき。ひと網で二百万にも、三百万にもなるし、ときには五百から六百万になることもある。漁師にとってマナガツオは勝負にかける魚なんよ。
 
マナガツオは名前にカツオとつくけど、まさか、カツオの種類と思ってないやろな? カツオとは全然関係ないんぜ。味はもちろん、姿形も全然違う。マナガツオはしいていうたらマンボウに似とるかな。丸い目に丸い顔でかわいい形をしとらい。もちろんマンボウとは大きさが全然違って小さいのは二十センチから大きいので四十センチぐらい。鯛と並ぶ高級魚よ。
 
前はそれほど一般には知られてなくて、京都の料亭あたりで使われとったぐらい。ここのところは人気が出てきて結構どこの料理屋でも見かけるようにはなっとるよ。それでも値はそうは安くないけどな。
 
このマナガツオを漁師が狙うんは、一か八かのバクチを賭けるようなもんなんよ。会社勤めの人は漁師という職業そのものがバクチみたいと思とるかもしれんけど意外とそうでもないんよ。たとえば、鯛の場合やったら、だいたいが魚礁におるし、鯛の通り道というのがあるけん、それを潮の流れで動きを読んでしとめる。それに鯛はイカナゴとか大ジャク(エビの種類)が好物やけん、イカナゴや大ジャクが湧いとるところには、間違いなく鯛もおる。やけん、鯛なんかは読みができる技術のある人が必ず捕るんよ。まあ、年功序列ではないけど実力年俸制みたいなところよ。
 
やけど、マナガツオはなにより、“運”がものをいう魚。プランクトンを食べよる奴やけん、どの筋を通っておるのか、どの潮にのってくるんのか、どんなもんかようわからん。そりゃ広い海の上であてずっぽうに網をはるというわけにもいかんけん、今までどの時期のどの辺りであがった、というようなデータと勘をもとに、魚群探知機とにらめっこしながら、だいたいの見当をつけて探すんよ。魚探はイワシは赤とか、マナガツオは水色とか、なんべんも見よると色でだいたいの魚を区別できるようになるけん。やけど、水色はなかなかに見つけられん。
 
たとえ群が見つかったとしてもマナガツオを狙っとる船が多いけん、近くにおる船がすぐに集まってくるんよ。網を入れるのは早い者順。順番が来てまだ群がおればええけど、あいつらも移動するけんな。ほんと、運よ。マナガツオに固執せんと、一回二回でもどっかの魚礁に網を入れればなんかはかかるやろうに、当たれば大金という誘惑でその時間も惜しんで探し回ってしまうんよ。運がつかんかったら二、三ヶ月間、獲り高ゼロ、という船もおる。まあそれが、漁師にとっては面白いんやと思うんよ。
 
わしはこのマナガツオは狙ったことがない。勝負事は嫌いじゃないけど、どうも性分に合わん。そういう意味では生粋の漁師肌ではないんやろな。わしは完璧にデータを分析して、ある程度、獲り高の読める漁のほうが仕事としてやれる。
 
食べるのは好きよ。さすがに値がはるだけのことはあって、こいつほど、料理のしかた次第でいろんな顔を見せる魚はおらんけん。
 
産卵する前の十二月末ごろは、よう肥えて脂がいちばんのっとるころ。一キロ以上の大きいやつは刺身がうまいんよ。身は比較的やわらかい食感で、口に入れるととろっと溶けて濃厚な甘みが広がる。脂の甘みよ。つけた醤油をはじくぐらいやけん。たぶん目隠しして食べたら大トロと間違えるんやない。
 
ちょっと小さいのやったら塩焼きにする。パリパリに焼けた薄い皮を破って箸を入れると、中からジュワっと汁がでてくる。うまいステーキ肉を切ったときに肉汁がでるのと同じようなイメージよ。身はものすごいジューシーで甘い。塩がついとる皮をまぶしながら食べるとまた甘さが引き立って、これは酒よりごはんが欲しくなるんよ。プランクトンを食べよるマナガツオの内臓は小さくて、頭の下からしっぽの先までほとんどが身やけん、かなり食べ応えがあるぜ。
 
ビールのつまみにするなら唐揚げ。ギュッと目のつまった身を揚げると鶏肉のようなホクホクした食感でこれまた塩焼きとは違った香ばしい甘みになるんよ。頭は軟骨やけん、まるごとバリバリ食べられて捨てるところがない。
 
ちょっと日保ちさせるなら味噌漬け(西京漬け)がええな。京都の料亭なんかで出されるのはこれなんよ。海から離れた京都で食べるには日保ちせんといけんけんな。でもおかげでマナガツオのいちばんメジャーな料理になっとる。確かに味噌との相性は魚の中でダントツよ。風味もええし、ほかの料理にはない、繊細な味が出てくる。
 
ここの漁師に当たりが続いたら、うちでも味噌漬けにしておく。漁に出れんときには最高のおかずになるんよ。
 


2013年2月27日