春を告げる魚たち

春は産卵の季節。冬の間は卵をつくるために、栄養をたっぷりとっとるけん、脂ののった、いわゆる旬を迎える魚が多いんよ。オスは白子が大きくなるし、メスは真子が大きくなっとるしな。それがいよいよ卵を生む!というころには卵に栄養をしっかり吸い取られてしまうけん、親のほうはすっかりやせてしもうて味も落ちる。正直、春はあんまりうまい魚がおらんのよ。
 
もちろん、魚という魚、全部が全部春に産卵してしまうわけではないよ。五月ぐらいに産卵するサヨリ、サワラ、キスなんかは、三月ごろに旬を迎える。漁師のあいだでは、「春を告げる魚」というたりすらい。
 
海面あたりを泳ぎよるサヨリを捕るのはサヨリ漕ぎ。二隻の船がひとつの網を持って海面をひっぱって捕るんよ。サヨリ漕ぎをやりよる仲間がサヨリをもってきてくれると、「おー、もうそういう季節か」と思わいな。太いやつは刺身で食べる。たんぱくで、それほど味の深い魚やないけん、糸造りにするんよ。いっぺんにまとめて食べられるけん、こまやかやけどしっかりした味になるよ。ちょっと小さいやつは、干物に。ほんのりと潮の風味が味付けされて酒の肴にええんよ。
 
料理屋では、サヨリを寿司ネタでよう使うやろ。春らしいあっさりした味やけん、季節感があるんやろな。ショウガであっさり煮ても春っぽい料理にならい。
 
砂地に住んどるキスは底引き網で捕る。キスというたら天ぷらがメジャー料理よ。キス以外でもアナゴとかドンコとか天ぷらがうまい魚はおるけど、それでも、「上品さ」いう点ではいちばん。臭みもぜんぜんない、サッパリした味よ。上手に揚げればいくらでも食べれらい。
 
家庭で上手に天ぷらを揚げるのは難しいというけど、ていねいに揚げたらそうたいそうなことではないんよ。家で失敗するのは温度の変化なんよ。小さい天ぷら鍋に欲張っていくつもネタをいれると油の温度が下がってべちゃっとなってしまう。できれば、食卓の上に鍋をセットして、自分が食べるやつをその場で衣をつけて少しずつ揚げながら食べる、という風にすると揚げたてを食べれるけんええんやけどな。衣のコツは料理の本とかにもよう載っとると思うけど、氷をいれるのがいちばん簡単。ふわっとさくっと仕上がるぜ。
 
キスは大きいのやったら、刺身もうまいんよ。ただ、そうとう新鮮やないと、刺身にできん。捕ってすぐ船の上で食べるぐらいやないといかんよ。家に帰ってからじゃ、もう遅い。身がぐにゅっとやおう(柔らかく)なってしまうけん。釣りをする人やったら、船の上で刺身にしてみたらうまいと思うよ。刺身にできんかったら、塩焼きもええわい。レモンをかけてあっさりと。「あっさり」がキスの味やけん。
 
回遊魚のサワラは止まってられんけん、網を夕方にしかけて潮の流れにのせて流しとって、夜中から朝にかけて網をあげる流し網で捕る。身がものすごい柔らかく脂ものっとって、マグロに似とる高級魚。好きな人はたまらん魚というやろ? 刺身でも焼きでもうまいと思うけど、実はわしはよう食べんのよ。魚の中でも食べれんのはこいつぐらい。実は、昔あたったことがあってな。それ以来・・。
 
もうひとつ、春といえば・・、の魚がコチ。他の季節は食べるような味をしとらんけど、菜の花が咲くころだけはおいしくなるけん「菜種コチ」とも呼ぶんよ。いま紹介した春を告げる魚はどれも身がやわらかいのばかりやったけど、こいつは身が硬いけん、刺身はうす造りに。ええときのコチはたんぱくな中に甘みがあるけん、ポン酢が合う。コチは骨がましい魚といわれとるけど、真ん中からしっぽにかけては小骨がないんよ。刺身にするんはしっぽのほうの身。前半分は素焼きにして「ひしおみそ」と一緒に食べる。身がようしまっとるけんな、ひしおみそぐらい濃い味が合うんよ。これは酒よりごはんといっしょに食べるのがおすすめ。しっかり食べてしっかり働けるぜ。
 
当たり前のことやけど、自然の中におるもんを捕るということは、季節によって、捕る魚も漁も食べるもんも変わる、ということ。自然に合わせるということよ。
 


2016年3月3日