たけのこメバルのあっさり煮付けと
即席お吸い物

 
たけのこが出てくるころからメバルはおいしくなる。魚を煮付けて食べるんやったら、わしはこのたけのこメバルがいちばん好きよ。肉付きがようて、身がプリッとしまっとるんよ。いわゆる旬といわれる脂がいちばんのってくるんは六月ごろなんやけどな、煮付けにするんは脂がのりすぎてない、ほどほどのほうがええ具合なんよ。
 
メバルはメバルのもっとる繊細な味を損なわんようにあっさり味付けするのがおいしく煮付けるコツぜ。よそのことはわからんけど、もし、メバルみたいな繊細な魚でさえもあら炊きのように砂糖としょうゆでこってり甘辛く味付けしてしまう料理屋があるとしたら、メバルが新鮮じゃないきん、においを消すために甘辛くするんやなかろかと思うんよ。もし新鮮やったら、せっかくのメバルの味をわざわざ殺すような味付けをするんは料理人として無粋やし、メバルがもったいなかろ。
 
たき方は簡単よ。
 
大きめの鍋にメバルを入れて、体がひたるくらいに水をいれる。水を入れすぎると全体に水っぽい味付けになるけん、鍋とメバルの大きさで調節してな。そこにうすくちしょうゆと酒を少し入れる。味付けはそれだけ。沸騰ささんように強めの中火で落としぶたをして十から十二分くらい煮る。強火でぐらぐらと沸騰させてしもたら、新鮮なやつは身がはじけてとれてしまうけん。弱火もだめよ。弱火で時間をかけてたくと、メバルのもっとる味や香りが汁に出てしまうし、逆に調味料の味が身に入りすぎてしまうんよ。
 
アクもしっかりとる。煮上がる前に味をみて、味がなじんでないようならそこで足りんもんを足す。
 
調味料の分量はそのときのメバルの具合を見てよ。同じころのメバルでもそれぞれ太さも身の張りようも違うけん。
 
作り方は簡単やけど、分量がちゃんと決まっとるもんじゃないきん、ようは具合よな。自然の素材は同じもんはひとつもないんやけん、ひとつひとつの素材の味を活かして料理するんが腕なんよ。
 
まあ、料理屋でも煮方は厨房でいちばん偉い人がやる仕事やけんな。
 
刺身を切るんは、ようは切るだけやけん。もちろん素材ごとで身の薄さや切り目の入れ方とかあるけど、そんなんは料理人としてできるんは当たり前。修行をすればまあまあできるようになるけど、煮付けの味だけは、その店の味を守らんといけんけん、その責任をまかせられる味のわかるもんじゃないとなれんのよ。
 
味がわからんかったら、いつまででも煮方はできん。
 
たけのこメバルの煮付けはもうひとつ、楽しみがあるんよ。全部食べ終わったら、アラや骨をおわんに入れて、熱湯をそそぐ。少しの煮汁とほんの数滴しょうゆを足したらメバルの即席吸いもんの出来上がり。水からたいとる煮汁やけん臭みもなくうまみが出とるし、骨からメバルのエキスがしみ出て、そらうまいよ。
 
カサゴなんかも煮付けはうまいけど、この吸いもんのうまさでいうたらやっぱり、メバルよ。たけのこメバルのほどほどの脂加減がちょうど吸いもんにええんよ。酒を飲んだあとなんか、格別しみるぜ。新芽のわかめを入れると磯の風味が倍増よ。
 
甘辛い煮付けに慣れてしもうとる人は、あっさりした煮付けも吸いもんも、もしかしたら味がないように感じるかもしれん。味覚はどんどん麻痺してしまうけん。素材の味を感じるには、日頃からどれだけ自分が食べよるもんに関心を持っとるかよ。日頃から食べ付けとかんとどんどん舌もおかしくなるよ。
 


2013年3月29日