春の味・ワカメの新芽とネバネバ…

 
春になると、たけのこやたらの芽、わらびにぜんまい、つくし・・といろいろな山の菜が芽をだしてくるやろ。海もおんなじでな、もぐりをしよると三月に入ったころ、岩や石に根をはったワカメやひじきの新芽を見つけるんよ。
 
正真正銘、天然のワカメ。最近は養殖がほとんどで天然のワカメを食べようと思うたら、自分で採るしかないけんな。
 
ワカメやひじきらの海藻は陸の植物とおんなじで、太陽の光がないとよう育たんけん、だいたい三から五メートルのところに出とる。たけのこなんかようわかるけど、まだ春になりきらんころのは柔らかくて新鮮でうまいやろ。ワカメやひじきの新芽もすごく柔らかい。わしはとくにワカメが好きでよう食べるんよ。
 
ワカメは根の上についとる根かぶのところから芽が出てくる。芽が十センチくらいに伸びたぐらいが新芽。それ以上伸びたら、新鮮さがのうなるよ。桜の開花といっしょで、その年ごとの気候で伸び始める時期が変わるけん、気をつけておかんとちょっと見なんだら、すぐ伸びてしまうんよ。
 
採るときは、根かぶをとってしまわんように気を付ける。この根かぶは残しとったら、二番、三番とまた芽が出てくるけん。
 
この新芽は、ほんとうに「新鮮」という言葉そのまんまの味よ。ほんと、春を食べよる気がすらい。このワカメの新芽をマヨネーズにつけて野菜みたいにたっぷり食べるのが好きなんよ。もちろん、ワカメの王道の食べ方、吸い物に入れても風味がええよ。娘の東京のともだちが遊びにきたときに、吸い物に入っとるこのワカメに驚いとったな、「味がすごい。しかも肉厚」というて。天然のワカメ自体、そうは出会う機会がないやろうし、新芽なんか食べたらそりゃ、全然ちがうと思うぜ。
 
この新芽は短いけんもぐりで採らんとムリ。でも、十センチのちょっとしかない新芽をとるのは面倒やけんな。もぐり漁をしよる人でも採りよる人はおらんぐらいよ。この辺の漁師が採るんは浅瀬に入って採れる三十から四十センチくらい伸びたやつ。わしも面倒ではあるんけど新芽はやっぱ味がええけん、もぐらんわけにもいかんのよ。うちは店でも毎日使うけんな、一年分をこの時期に採っておく。だいたい二日間で四百キロぐらいかな。ワカメはほっといたらどんどん伸びるけど、あんまり大きくなったら色も悪いし硬くなってしまうけん。
 
実はもうひとつ、ワカメにはうまい部分があるんよ。根かぶ。さっきなるべく採らんようにと言うたところなんやけどな。ここを採ったら、二番三番が出んようなるけん、本当は残しておくんよ。それがあるとき、うっかり採れてしもうたんよ。食べる習慣がないけん、ふつうなら捨ててしまうところやけど、ちょっと気になってな。
 
せっかくやけん、食べてみたら、うまかった。
 
形はバラの花がもうすぐ咲きそうになっとるぐらいに、肉が重なりあっとる。大きさもバラの花とおんなじぐらいよ。
 
色は明るいグリーンで初めて見る人はまさかワカメとは思わんかもしれん。食感はコリコリして、ものすごいネバネバなんよ。箸でなかなかつかめんのやけん。これを刺身感覚で醤油につけて食べる。
 
とにかく磯の風味が強くて、歯ごたえがええんよ。ワカメは吸い物の具にしたり、魚の刺身のつまにつこうたりするけど、この根かぶなら、メインでいける。そのくらい主張も強い。一回食べたら忘れられん味よ。栄養価のことはようわからんけど、たぶんネバネバしとるところなんか、栄養があるんやないかな。
 
最近は町の人も浅瀬に入ってワカメを採りにきよるけど、根かぶもいっしょにもいでしまいよるけん気を付けてな。でももしうっかりとれてしもたら、ちゃんと捨てんと刺身にして食べてみて。ただほんとは、漁業権がないと、ワカメ自体採ったらいかんのぜ。
 


2018年3月9日