子をひるイカの活け造り

 
四月一日はイカスの解禁日。イカスというのはコウイカをとる仕掛けのことよ。コウイカは背中に大きい甲羅をもっとるまあるい形をしたイカで、このところ伊予灘ではいちばん数があがっとる。こいつが四月から六月の間は、海に落ちとる木の枝とか、ロープとか、ごちゃごちゃしたもんに子をひる(産卵する)んよ。イカの中でもアオリは海藻に子をひるけん、イカも好みがあるんやろな。気持ちよく子をひる場所というのには。
 
イカスはひとつずつ手作りする。いちばんようやりよったときはかごの数が四百二十個。まず長さ三メートル弱、幅二センチほどに切った竹で直径一メートルくらいの輪っかをふたつ作って、その輪が天井と底になるようにして網をつけていくんよ。ちょうど網で円柱ができるような感じ。その中心に“ごちゃごちゃしたもん”を入れてやる。このイカスを海に入れておくとイカはその“ごちゃごちゃしたもん”に子をひりにどんどん入ってくるんよ。それがイカス漁。
 
イカがどれだけ入るかは、気持ちよく子がひれる場所かどうか、つまり、その“ごちゃごちゃしたもん”にかかっとるんよ。わしが使いよるんは「女竹」のシラネ。ほっそりした女竹は根も細くて、シラネがうまいことごちゃごちゃ四方八方に開いとる。しゅーっと伸びとる普通の「真竹」やたけのこができるずんぐりした「もうそ竹」は、ごぼうみたいな根っこばっかりでシラネがない。
 
ただこの女竹のシラネはあんまり数がのうてな、探すのが大変なんよ。それでいっぺん普通の木の枝でやってみたことがある。葉っぱのついとるやつな。広島あたりでは葉っぱのついた木の枝を使っとるみたいやけん。
 
これは全然いかんかった。もちろん、入らんことはないんよ。でも確率が悪い。それにこいつは一年でだめになってしまうんよ。葉っぱも落ちて枯れてくさるけん。
 
女竹のシラネはイカス漁がおわったとき、ちゃんと洗っておけば五、六年はもつよ。ただシラネのごちゃごちゃしたところにようけ子をひっとるし、コケやらなんやらこびりついとるけん、普通に水で流すくらいじゃ全然だめ。以前は天日で干して乾いたところをほうきでたたいて落としよった。数があるけん干すのも手間がかかるけんな。それでわしはあの勢いよう水の出る洗車機をこうて洗ってみた。これがキレイに落ちるんでな。今ではイカス漁の人はみんな洗車機をもっとるぐらいよ。
 
ええ漁場やと、ひとかごにコウイカが十~十五も入っとる。値もようてな、一日で二十五万くらいは捕りよった。それが十五年くらい前の話よ。実はコウイカが好む砂地のええ漁場というのはだいたいが区域外でな。前は区域外で仕掛けとっても暗黙の了解みたいなとこがあったんよ。でも保安庁が厳しくなったけん、今は全然だめよ。かごは百四十個に減らしたし、値も落ちた。一日三万円もいかんよ。
 
このコウイカを食べるときは活け造りが多いんよ。この前、活きた魚は味がようないと言うたばっかりやけど、実際コウイカもそう。さばいてから冷蔵庫で寝かしたほうが、甘みは出る。活きとるやつは身も味も硬いけん、普通の切り方で食べたんじゃあ、うまくないんよ。ただコウイカは活きのいい食感を楽しむもん。そこで料理人の腕の見せどころよ。細かく包丁目を網目状に入れてうすくうすく切る。身の硬さが活きのいい歯ごたえに変わる瞬間よ。網目にしょうゆがなじんで甘みがグッと出てくる。
 
それになんといっても色がきれいよ。普通のイカの刺身は死んどるやつやけん、にごった白色しとるやろ。活きとるイカは透明度が違わい。
 
下足は天ぷらにして塩で。コウイカの風味が衣に閉じこめられるし、身はプリプリしとるぜ。
 
ビールのつまみにはバター焼きもいける。自分の主張があんまりないやつやけん、ちょっと色をつけてやるんよ。
 
イカス漁は仕事やけん、六月末ころまでやるけど、そのころのコウイカはほんとはおすすめできん。ええのは五月いっぱいまで。こいつは何回も子をひるんよ。子をひるごとにどんどんやせて小さくなってしまう。子をひりおわったら死んでしまうんやけんな。イカの命は一年。鮭とおんなじよ。
 
もちろん個差はあるよ。イカに限らんことやけど、なんぼ旬の時期でもやせとるやつはうまくないし、ちょっと時期は遅くても身のよう肥えたやつもおる。自然に活きとるやつやけん、いちがいには言えんけん。
 


2013年4月24日