鯛より高価な夏のアブラメ(アイナメ)

 
夏本番を迎えるころに脂がのってくるうまい白身の魚というたらアブラメ。ずんぐり丸々っとしとって、茶色い棒状のその姿形はまるでビール瓶みたいよ。見た目は決して高い魚とは思えんけど、六、七月ごろやったら、鯛の倍の値はする。いつでも鯛が高価でうまい魚やと思うたら大間違いぜ。夏場の鯛は産卵後で痩せとるうえに、あがる量も多いけん、一年の中でいちばん価値が低いんよ。
 
アブラメは水深が五から十メートルくらいの岩場に住んどって、オオジャク(エビの仲間)やミミズ(ゴカイ)などの虫をエサにしとる魚やけん、釣りをする人もよう狙いよらい。ただ、たいていの魚は旬じゃないころにたくさん釣れる。産卵の一ヶ月くらい前から、産卵後一ヶ月ぐらいはあちこち動きまわるけん、そのときはよう釣れるんよ。残念ながらそのときは身の状態はようない。前もいうたけど、旬といわれるんは産卵の四ヶ月ぐらい前の少しずつ白子や真子がつきはじめるころ。しっかり産卵をするためにたっぷり身に栄養を貯えとるよ。こういう旬のときの魚はエサの豊富な魚礁でじっとしとるけん、釣りではめったに釣れん。もちろんまったく釣れんというわけじゃないよ。エサをうまいことあわしたらな。それも釣りの醍醐味なんじゃない。
 
わしら漁師もおんなじで、テクニックがいる旬のやつほど捕り甲斐がある。前の日にここだと思った場所に網をしかけといて、次の日の朝、狙い通りにアブラメがかかっとったらそりゃうれしいぜ。とくに一升瓶ぐらいに丸々肥ったやつがあがったら最高よ。釣りの人には申し訳ないけど、網のほうがあてる確率は高いけどな。
 
ただ最近は一升瓶ほどのやつは少なくなった。全体的に量が減っとらい。いまはビールの大瓶ぐらいやったらええほうよ。
 
アブラメは白身というてもあっさりした味を思うたらいかんよ。しつこいくらいやけん。そんなアブラメに合う料理は何といっても“やきしも”よ。“やきしも”というんは石鯛のときにも紹介した皮がついとる刺身のこと。まず、三枚におろして、中骨を抜く。骨を抜くんが面倒な場合は中骨部分を切ってのけてもええよ。身を串でさして、皮の側を直接火にかけてパリッと少し焦げ目がつくくらいの強火で焼く。身まで火が入ってしまうのは焼きすぎよ。かといってサッと焼くだけじゃあパリッとはならんけん、具合をみてな。ようは、カツオのたたきみたいなもんよ。ただカツオは両面を焼くやろ。こいつは皮のほうだけ。焦げ目がついたら氷水に入れる。熱がとれたらすぐにあげて、水気をとればあとは刺身を切る要領で。
 
つけるんは梅肉かポン酢がおすすめやな。好みでしょうゆでもええけど、ちょっと甘すぎるかもしれん。皮と身の間にある脂が独特の強い味があるんよ。その脂の甘みと香ばしい皮にサッパリしたたれをつけて食べると暑くて食欲がなくてもどんどん食べてしまうんよ。梅肉かポン酢が合うというのもわかるやろ。ヒラメやカレイが上品な白身なら、アブラメは激しく荒々しい白身。旬の身はハリがあるけん、食感もしっかりしとるよ。
 
焼き物も煮物もうまいんよ。ただ、丸ごとやるにはちょっともったいないけん、頭を切るときに、頭のほうに五センチくらい身がのこるようにする。頭を真ん中で割って、それを焼いても煮ても食べ応えがあるけん。
 
焼くなら塩でも素にレモンをかけるのでも、ひしおみそでも、好みでな。煮るならしょうゆと酒であっさりと。いらんこと、調味料の味をつけんことよ。
 
刺身におろしたとき、もし中骨をきっとったら、それは吸い物に。ちょっとびっくりするぐらいにええだしがでるよ。うまい吸い物をつくるんは味付けが繊細で難しいと思うかもしれんけど、旬の魚のアラでもあれば、あとはしょうゆを少量たらすぐらい。高級料亭にも負けん極上の味になるんぜ。
 
アブラメは夏には鯛より高いというたけど、旬のときの鯛やヒラメに比べたら安いもん。せっかく日本におるからには、季節に合った旬の魚を味わうのも一興よ。
 


2013年6月28日