安産祈願にアワビをまるごと

 
この辺りでは妊婦にアワビを食べさせる。アワビを食べたら安産になるというのが昔からの言い伝えなんよ。しかも食べるときはアワビをまるごとかじって食べんといかんのぜ。わしも母親からそうせんといかん、と聞いただけで理由はわからんけど、たぶん、包丁で身を切るというのがいかんのやと思うんよ。鯛の塩焼きでも普通は火が通りやすく、見栄えようするのに身に包丁で切れ目を入れるけど、お祝い事のときは切れ目を入れんと焼くけんな。やっぱり「身を切る」のは縁起が悪いけん。
 
これがただの言い伝えやと侮ったらいかんぜ。うちのもふたり子供を産んどるけど、わりと安産やったし、息子の嫁なんか初産やのに、担当の先生から「超」がつくくらい安産やったっていわれたんやけん。
 
アワビにはもうひとつ妊婦に食べさせるといいといわれとるところがあるんよ。肝よ。肝を食べると目のキレイな子供が産まれるというてな。まるごと食べれば肝も食べることになるんやけど、まるごとかじるには焼かんことには噛みきれんやろ。この場合の肝は生で食べるほうがええんよ。肝がいいというのはちゃんと科学的に証明されとるみたいよ。アワビに限らん、貝の肝に含まれる栄養素が視力を良くするというて、たまたま見たテレビの番組でいいよったけん。視力がよくなるということが、目がキレイということなんやろな。
 
妊婦が食べるには旬もなにも関係ないけど、うまいアワビを食べるなら七月に入ってから。夏のアワビは殻からあふれるぐらいに身が肥えとる。冬ごろのアワビは殻の中に身が隠れてしもうて、やせこけとるけんな。
 
旬の間は刺身で食べるのがおすすめよ。身がやわらかいんよ。魚と違って貝の刺身は脂が乗ってくるわけじゃないけん、口当たりはサッパリしとるけど、噛んでいくうちにアワビ独特の磯の風味と甘みが強く出てきて、さすがに高い値をつけるだけの上等な味をしとらい。旬をはずれるとアワビというてもただコリコリ硬いだけやきん。
 
肝もきれいな色をしとるんよ。オスはクリーム色、メスは緑色で本当に鮮やか。冬ごろの肝は黒ずんどって、ちょっと苦みもあるけど、旬の時期は甘い。日本酒好きにはこの肝の刺身はたまらんぜ。キリッと冷えた酒につるっと濃い味が最高のあてになるんよ。
 
焼いて食べるならおどり焼きよ。殻側を下に網の上にのせると身がくねくねと踊るように動くんよ。動きが止まったら軽く身のほうもあぶって香ばしくなったところを熱いうちに食べる。歯で楽にかみ切れるぐらいにやわらかいし、ほんとええ香りがすらい。海の味がついとるけん、塩もなんもつけんで十分ぜ。
 
夏は夕方の涼しくなったころにバーベキューをやるんよ。昔はバーベキューセットなんかなかったけん、ドラム缶を半分に切ってやりよったけど、最近は安いのがあらいな。やっぱり炭で焼くとええ具合に焼けてうまいわい。
 
ただ、アワビは高いのが問題よな。こんだけうまい海の幸をもっとかんたんに食べれたらええと思うけど、昔に比べたら量が減ってしもとるけん、最近はよけい高いんよ。
 
わしが潜りをしよった三十年ぐらい前は一日で三十から四十キロは捕れよったんよ。それが今は一日潜って五から十ぱいぐらいしか捕っとらんみたい。全国的に減ってな。
 
たぶん、捕りすぎよ。磯が傷んだというのもあると思う。アワビは岩の下とか、間におるんやけど、捕るときに石をはいでそのままにしとる人が多かったんやろうな。同じ所ばっかり捕るとか。場所を少しずつ変えて小さいやつは育てんといかんわい。
 
アワビは夜にエサを食べるんよ。岩に隠れとるのがほうて(はって)動くけんな、夜はようけ捕れるんよ。ほんでも、県条例で潜りをしていいのは日が昇ってから沈むまでと決められとる。やけん、夜は潜って漁をしたらいけんのよ。
 
でも、なんといっても、値がええきんな、違反して捕りよった人もおった。そういうことも関係しとるんじゃろうな。いくら値がようても、数が捕れんと商売にならん。わしは違反のことはどうでもええと思うけど、自分で自分のクビしめるようなことをしよったらいかんわいな。
 



2013年7月12日