サメはおいしい夏の味

 
もう覚えとる人も少ないやろうけど、二十年ほど前、愛媛の漁師がサメに食べられたんじゃないかっていうサメ騒動があったんよ。あのころはちょっと網にサメがかかったというたら、すぐ新聞社とかテレビがやってきて、写真やビデオを撮ってかえりよったわい。そのあとには日本海で頭がハンマーみたいな形をしとるシュモクザメが出るというて海水浴が禁止されたりしよったろ。
 
サメなんか昔からずっとおるのに。もちろん、伊予灘にもシュモクザメはおるんぜ。小さいけどな。
 
サメは別に人間ぎり(だけ)を狙って活きとるわけじゃないけんな。めったに噛まれることなんかないんよ。サメ騒動のときやって、貝を食べるのを間違えてつい、噛みついてしもうたんじゃない? それでもよっぽど珍しいことじゃけん。
 
漁師はサメは怖くもなんともないんよ。魚を捕るんが商売じゃけん、サメやって、網にかかったらとって帰って売る。そんなに銭にはならんけどな。だいたいはかまぼこの材料になるけん。
 
それが、夏の時期だけはサメが高く売れるんよ。
 
夏に何が何でもサメを食べんといかんという風習が宇和島や広島のほうであってな、宇和島の場合は夏の祭りやお盆で来たお客さんに食べさせる郷土料理的な感じ。広島は山のほうの人が祭りのときに食べよる。サメは日保ちがするけんな、ものがない時代に夏の祭りぐらいは刺身でも食べようというのでサメを食べよったのが風習として残ってきたみたい。
 
サメなら何でもええらしいけど、肌に点々がついとる「のーくり(ホシブカ)」か、似たようなんで点々がついていない「ソジブカ」あたりがよう売れる。このふたつは七十から八十センチくらいの大きさで、背ビレがあって、見た目はサメっぽいよ。顔はちょっととんがり気味かな。これが二十年前までは市場でふぐと同じぐらいのキロ一万円ぐらいしよったんよ。それが十年ほど前には半額ぐらいになって、最近はええときの十分の一のキロ千円~千五百円ぐらい。安い時期に仕入れた冷凍が出回るようになったのと、最近の若い人は祭りじゃけんというて郷土料理を食べるということもせんようになった。ダブルパンチで安うなってしもたんやと思うよ。まあ、サメがふぐほどの値がしよったんもどうかと思うけど。
 
ほんでもこいつら、実際のところ夏場には結構いけるんよ。湯ざらしにしてみがらし(酢みそ)で食べると、あっさりしとってな。皮目にはゼラチンがあるけん、ほんのり甘みもあって、ハモみたいな食感よ。そりゃ、味はハモまではいかんけど、ビールのつまみにええぜ。どっちかというと、「ソジブカ」のほうがゼラチンの甘みがうまい。
 
刺身で食べるなら「イサバ」というサメがおすすめ。体中に点々があって、いわゆるサメみたいなまんまるくんどる(丸い)顔をしとらい。成長したら三メートルも四メートルにもなるやつやけど、食べるんなら一メートルぐらいのときがええわい。大きくなったら切るだけでも大変よ。
 
こいつは身がものすごいキレイなんよ。しっかりして歯ごたえがあるし、臭みもなくあっさりしとるけん、夏場になんにも刺身がないときはわしもあらいにして食べる。養殖の魚を食べるよりはずっとええよ。
 
ヒレはちょっとゆがいて(ゆでて)、これもみがらしで食べる。「生フカヒレ」よ。あの独特の繊維質は生でもあるけん、食感がええわいな。中華料理屋で高いことフカヒレを食べんでも十分よ。だいたい、フカヒレというのは食感がええだけでそう味があるもんじゃなかろ。これならかまぼこ屋にゆうたらただでもらえるぜ。
 
ただ、生はゆがきすぎんこと。繊維がとけてなくなってしまうんよ。いわゆる「フカヒレ」は干しとるやつやけん、よく煮込んで味をつけとるんよ。
 
他にもいろいろなサメがおる。ネコの目によう似た目をもつ「ネコザメ」、まだら模様で頭が丸い「ひちかみ」とか、ここの市場にはだいたい十種類ぐらいはあがらい。
 
うちの店にはいけすがあるんやけど、にぎやかしにたまに網にかかったサメを入れとるんよ。「のーくり」は泳ぎ続けんと止まったら死んでしまうやつやけん、ひっきりなしに泳ぎよらい。余ったイカの刺身をいけすに入れてやったらパクっと食べるんよ。けっこうかわいいもんぜ。
 
「ひちかみ」は底でじっとしとるタイプ。こいつがうちで卵を生んだことがあってな。最初、入れた覚えのないもんがフラフラ動きよるけん、びっくりしたんよ。これが変わっとってな、ネジみたいなスクリュー型の形なんよ。色は黒くて、殻は硬いゴムみたい。子どもがおもちゃを落としたんかとか思うたぐらいよ。よく見ると中身が透けて卵らしいもんが見えた。本来フカ系が子を産むときは、人間みたいにそのまんまの形をしたやつが腹から出てくるんよ。じゃけんまさかひちかみのとは思わんかったけど、いけす屋のおやじに聞いてわかった。うまいことかやる(孵る)とええなというてみんなで見守っとったけど、温度が合わんかったんか、残念ながらいつまでも卵のままやったわい。
 
サメ=コワイ=悪いやつみたいに考えるのは勝手やけど、サメは海にはおるもん。それが当たり前やけん。たぶん、サメのほうが人間を怖がっとるぜ。
 

サメの卵。当時の写真はなかったので、フォト蔵から似たものをお借りしました。


2013年8月1日