残りものから生まれた鯛めし

 
ここらへんの漁師が一年を通していちばんよう食べる魚は鯛。というのも年間通したら量的にいちばん捕るのは鯛なんよ。鯛というたら高価やし、そんな贅沢なもんをいちばんよう食べるんか、と思うかもしれんけど、高く売れるんは活きとる鯛。海から引き上げたやつの中にはどうしても死んでしまうのも出てくる。鯛は深いところに大群でおるもんやけん、いきなり海上に上げられたショックも大きいし、暴れて互いにキズつけあったりするけんな。ヒラメとかカレイのように単独行動をしよる魚は、そうそう死んでしまうことはないんやけどな。
 
死んでしもうた鯛は市場で売ってもタダ同然。やけん、そういう鯛は家に持って帰って焼いたり、炊いたり、鯛めしにしたりしておかずにするんよ。しめる前に死んだ魚は刺身にはできんよ。
 
鯛めしというのは、文字通り鯛を入れた炊き込みごはんのこと。ところによっては、小さい鯛を頭ごとまるまる一匹入れたやつを郷土料理として出しよるみたいやけど、それは店が見た目を派手にしようと思ってやっとるんよ。
 
わしらが食べる鯛めしは、そんなたいそうなもんではない。アラの残りもんを捨てるのはもったいないけん、ごはんと一緒に炊いたらうまかった、というんで昔から漁師の家庭で食べよる。捕ってくる魚の種類はいろいろあるけど、こうやって炊き込みごはんにして食べるのは鯛ぐらいでな。他の魚がごはんに合わんということではなくて、やっぱり鯛がよう余ったけんなんよ。
 
祭りのときや組合や消防団の集まりとか、何かごとで集まりがあるときもやっぱり出てくるのは鯛料理。なんといっても鯛はめでたい魚やけん、派手になるんよ。たとえ法事とかでも、集まってくれたお客さんが喜んでくれるんがいちばんやろ。そのときもごはんものは鯛めしよ。アラはムダにならんし、一石二鳥。ただ、結婚の祝いや葬式なんかになると、鯛は使ってもごはんは鯛めしじゃのうて、赤飯とか巻きずしとかちらし寿司にする。いくらおいしくても、残りもののアラを使っとるという意識があるけん、正式な場所ではお客さんに失礼になると思うんよ。なんか微妙な違いのような感じもするやろうけど、こういうのは、何が正しいとかがあるわけじゃないきん、ようはお客さんに気持ちよう思ってもらいたい、というもてなす方の気持ちの問題よ。
 
作り方は炊き込みご飯やけん、たいして変わったことをするわけじゃない。忘れたらいけんのは、アラは最初に熱湯をぱっとかけて、魚特有のぬめりをとっておくこと。野菜はにんじんとごぼう、好みで油揚げも少し。味付けはしょうゆ、みりん、酒を少々。あとは炊飯器がやってくれるけんな。いくら贅沢にしようと思っても身だけを入れるんじゃあいけんぜ。身からは出汁がでん。アラじゃないと。
 
炊きあがったところで、アラを全部出して、骨についとる身をほぐしとったら身だけを炊飯器のほうに入れる。それでざっくりと混ぜれば出来上がりよ。
 
米のひと粒ひと粒に鯛のうまみが染み込んどって、甘くて香ばしい。とくに底にできるうすこげは格別うまい。万が一、炊きあがってうすこげがついてないときはちょっと加熱したらすぐにつくよ。
 
漁や子供の学校に持っていく弁当にもええわい。冷めれば、冷めたなりに味が落ち着いて改めて鯛のうまみがわかるんよ。
 
翌日、ちょっと硬くなった鯛めしもまた楽しみ。お茶をかけてごはんをほぐしてスープごとさらさらと流し込む。即席の鯛茶漬けは二日酔いの朝めしにももってこいよ。
 
うちらの漁師はあんまり遠洋にはいかんのやけど、たまに泊まりがけで漁に行くこともあるんよ。そういうときは船の上で鯛めしを炊く。泊まりのときは炊飯器と水、しょうゆぐらいは船に積んどるけん、その日に捕った小さい鯛か死んだ鯛を入れればすぐできるやろ。たくわんに、すまし汁でもつけりゃ立派な晩飯になるんよ。
 
鯛めしは漁師の生活になじんだ料理。これこそ漁師料理かもしれんな。
 
うまいのを食べようと思ったらくれぐれも養殖もんは使わんようにせんといかんよ。あんまりそういうことを言うと怒られるけど、別に養殖を批判しよるわけじゃないんぜ。わしは、個人的に、養殖独特のねっとりしたにおいの油が好きじゃないというだけやけん。 
 

いまはうちの看板料理になっています。
 


2014年9月6日