うまいものにはトゲがある

 
生きとる魚というのは慣れんかったら、なかなかよう触らんやろ。ようテレビで釣りなんかやっとって、若い女の子が魚を釣ったはええけど、「きゃー。」いうて竿を振り回しよるのを見かけらいな。まあ確かに魚というのはたいていのもんがトゲがついとるけん、ちょっとでも先が刺さると痛いけんな、わからんでもない。
 
漁師はどんな魚でも触り方はわかっとるし、多少トゲが手にあたるぐらいじゃあ、なんてことない皮の厚い手になっとる。それに網から魚をはずすのにいちいちそんなの気にしとったら仕事にならん。
 
ほんでも漁師を長いことやっとると、極極たまにやけどものすごい痛い思いをすることがあるんよ。網にそいつがおると気づかんと、いつものように魚を投げとるとプスリ。
 
わしの場合はだいたいが海の中よ。潜りをしよるとき、そこにそいつがおるとはわからんと手をもっていってしもうて刺されてしまう。
 
もうおわかりかと思うがそいつの名前はオコゼ。上から下まで黒々しとって、海の中では敵から身を守るために周りの岩と同じような肌合いをして岩陰に隠れとるけん、よっぽどジーッと見よらんとそうは気づかんのよ。レジャーダイバーみたいに観察するために海に入っとるわけじゃないけんな。
 
刺された瞬間は「あいたっ!」という程度やけど、五分・・十分・・と時間が経ってくると強烈な痛みが襲ってくる。「ズキズキ」なんてどころの騒ぎじゃないぜ。あまりの痛さに一生懸命に大きく息を吸わんといけんような呼吸困難になる。刺されたもんにしかわからん痛みよ。
 
こうなるとすぐに引き上げて医者に行って注射をうってもらう。このとき、トゲが刺さった分だけの注射をうつんよ。いちばんひどいときは手のひらに四本刺されたけん、四本の注射を手のひらにうった。
 
注射をうてば痛みはいっぺんにひいていく。見事なぐらいにな。よっぽど強い注射なんじゃと思うぜ。その後は腫れがひくのに二日ほどかかるけど、痛みは一日で治る。この辺は漁師が多いけん、医者もオコゼ用の注射をちゃんと準備しとるんやと思うんよ。都会の病院ではめったにないやろうからな、オコゼに刺されたというて来る人は。調理するときに刺されるようなマヌケな料理人もおらんやろうしな。
 
オコゼのトゲは猛毒でな、医者がいうには「刺されどころが悪いと毒がまわって死んでしまうこともある」らしい。幸い、この辺の漁師にオコゼに刺されて死んでしもうたやつはおらんけどな。
 
猛毒というても、オコゼはトゲさえとってしまえば旬にはうまい魚よ。オコゼ好きは本当にオコゼ一筋でな、うちの店にもそういうお客さんがおって、毎回オコゼを頼んでくれるぐらい。ただ、旬をはずすと食べれる魚じゃないけん、秋冬限定よ。
 
わしのおすすめは刺身。他の魚といっしょで、旬を迎えると身がほんのりとアメ色がかって透明感が増してキレイよ。
 
カワハギみたいに肝は細かくたたいて、ふぐみたいに身をうす造りにしてポン酢で肝とあわせて食べる。しゃんとした食感に肝のほんのりした甘みとポン酢のサッパリ味が合うんよ。
 
「オコゼといえば唐揚げよ」という人がおるかもしれんな。確かに料理として全国的に有名なんは「唐揚げ」で人気があるんもわかるよ。オコゼの皮は揚げるとパリッと香ばしくて甘みが出るんよ。でも唐揚げが好きな人ならなおさら、身は刺身にしといたほうがおいしいオコゼの唐揚げが食べれるぜ。 
 
刺身にした残りのアラを唐揚げにするんよ。硬い大骨のある頭や背骨は先に包丁の背でたたいてつぶしておいて、カリカリになるくらい強めに揚げる。こうすると、複雑な頭周りの骨も、背骨もヒレもきれいさっぱり、跡形もなくバリバリっとぜんぶ食べることができる。
 
それが身ごとまるまま唐揚げにするとしたら、第一に身の具合を考える。カラッと揚げるのは当然やけど、頭がカリカリになるぐらいに強く揚げたら、身のほうがパサパサしてしもて食べれたもんじゃないけん。その前に、頭をたたいてつぶしておくのが難しい。料理としての見てくれが悪いやろ。でもそれをやっとかんと、いくらカリカリに揚げたとしても、口に入れたら痛いぐらいの硬さは残る。背骨だけはさばくときに別に取り出して、アラでやるのと同じようにしっかり揚げて骨せんべいにできるけど、オコゼは頭の比率が大きいけんな、ここをどう食べてやるかが食べるほうの大事なマナーよ。もちろん、身や皮をしゃぶって骨は残すのでもええけどな。
 
あんまり唐揚げが好かん人はアラをみそ汁か吸い物にしたらいい出汁がでるよ。
 
オコゼは煮付けもうまいんよ。いつも同じ料理法やったら一回試してみて。皮のうまみと、淡泊でぷりっとした身があっさりした味付けで生きてくるけん。
 
ここまでの話は黒オコゼのことぜ。大きいヤツは四十センチくらいにもなる。釣りしよるときにたまにかかったり、海水浴で刺されたりするのは赤オコゼ。こいつは浅いところの砂地とか藻の下あたりにおって、どんなに大きくなっても五センチぐらい。ほんでもこの赤オコゼも食べれるんよ。まるごと唐揚げにして頭からバリバリっと。けっこういけるよ。
 

 


2015年2月15日