漁師の天気予報

 
漁師にはなにはともあれ、日より(天気)が大事よ。風が吹いて波がでとると海に出ても作業ができんけん漁にならん。雨の日もカッパを着とっては動きにくいけん、風がなくても漁にはいかん。暑さとか寒さの点では平気なんよ。暑かったらちょっと船を走らせたら涼しいし、漁をしよるときは、そんなに暑さとか寒さを感じんのよ。魚がかかとったら早う網からはずさんといかんけん、それどころじゃない。
 
一年で天気が安定しとるのは夏よ。台風が来ん限りは漁に出れんほど時化ることがないよ。秋や冬は“しらた”が出る日が多い。“しらた”というのは雲ひとつない青い空にうっすら白い雲のすじが出たり消えたりすることをいうんよ。昼間、どんなに天気のええときでも、空に“しらた”が出たら、だいたい明くる日は(南西風)が吹いて雨がふる。
 
夜、西の空がぴかっぴかっとほぜっとる(明るく光っている)ようなときは日よりがない。どんなにその時点で海が凪いどっても、必ず次の日は時化るんよ。
 
星があんまりキレイに光るときも時化の前触れ。星がキレイに見えたらふつうはうれしいんやろうけど、わしら漁師は「あ~明日は時化て、漁に出られんなあ」と憂鬱になってしまう。こういう空になるんはだいたいが冬よ。冬はよう風が吹くけん漁に出れる日のほうが少ないんよ。
 
日よりは空の色や雲行き、星の光を見て、風がどっちから吹くか、どのくらいの強さかを判断する。毎日空は違う顔をしとるけんな、パターンはあるけど、その日の天気は一日も同じ日はないんぜ。ふつうの人は雨が降るかどうかぐらいしか天気は気にならんかもしれんけど、漁の場合は風が重要やけん。何時ごろ風がどっちから吹くか、それからどう風が変わるか、というようなことはもちろん、雨がどのくらい、何時ごろに降るか、暑くなるか寒くなるかもわかる。
 
最近の天気予報は衛星とかやらで、昔にくらべるとずいぶん進化しとるみたいやけど、それでもいつまでたっても「当たる確率」は悪いな。だいたい予報する区域が大きすぎるんよ。日本全国の天気をいっぺんに予報しようとするのは無理があらい。全国の漁師に予報を聞いたほうがよっぽど当たるんじゃない。その場所に立って、空を見とったらわかるはずやけん。子供も遠足や運動会なんかの前の日は、テレビの天気予報なんか信用せんと、必ずわしに聞きよったわい。
 
この日よりの見方は年取った漁師から教わってきたんよ。毎日毎日、港に集まって空を見ながら、明日の風はこうなる。天気はこう・・という風にな。
 
ラジオもテレビも携帯電話もない、今みたいに便利な世の中じゃないころでも昔の漁師は日よりを見て判断できんと、漁に出れんけん。漁師ならではの独特な日よりの見方ができるようになったんよ。万が一、日よりを見間違って、海が時化るときに漁に出たら、漁ができんぐらいじゃすまんけんな。波に船がもっていかれたら終わりじゃけん。
 
わしがいうのもなんじゃけど、漁師はえらいもんよ。こうやって天気予報よりずっと当たる日よりを見られるんじゃけん。こればっかりはどんなに科学が進歩してもこれからもずっと漁師の間で言い伝えられると思うよ。
 

 


2013年11月7日