釣り人に人気のイシダイ

 
鯛、ヒラメに次ぐ冬の旬の魚というたらイシダイ。「タイ」という名がついてはおるけど、祝い事に使われるマダイに比べたら見た目の華やかさにしても、存在も地味ではあらいな。
 
それが、釣り人たちにとってのイシダイは「タイ」の代表・マダイもとうてい及ばんぐらいの人気を誇っとる。人気の秘密はその「強さ」よ。
 
釣りをしたことがある人なら釣り針に魚がかかったときの「ひき」の感触を知っとると思うけど、イシダイがかかったときのひきの強さというたら、そりゃ、魚を相手に格闘技をするようなもんよ。イシダイはなにがなんでも逃げてやる、と思とるんかどうかは知らんけど、自分の心臓が破裂するぐらいまで一生懸命に泳いで抵抗するんじゃけん。
 
釣りの楽しみは、ようけ魚を釣るということももちろんあるやろうけど、魚とどう戦うかやと思うんよ。そりゃ、相手は手強ければ手強いほうが戦い甲斐があるというもん。野球でも、日本が誇る名選手が次々とメジャーにいってしまうのも、戦い甲斐のある相手とやりあいたいという、損得無しの無邪気な思いがあるけんやと思うぜ。漁師も同じようなところはあるけん。
 
イシダイが強いのはひきだけじゃない。好物のサザエやアワビ、カラス貝の硬い殻を割ってしまう頑丈な歯は、人の指を切り落としてしまうぐらいなんよ。
 
生命力もマダイの比じゃないよ。海からいっぺん上がったマダイはよう生きて一週間ぐらいやけど、イシダイは水槽に入れとったらいくらでも長生きする。
 

 
生命力のある魚がええのは、港から離れた都会の料理屋でも新鮮な状態で食べられることよな。料理屋にしてみても、仕入れてその日のうちに売れんということはままあることやろうし、それでも生きたまま置いておけるのは魅力なんよ。やけん、意外かもしれんけど値はマダイよりちょっと高い。あんまり安いのはどこから来たもんか、本物かどうかもわかったもんじゃないぜ。
 
イシダイを食べるなら、わしのおすすめは一キロぐらいまでのちょっと小ぶりなやつのやきしも。やきしもというのは、皮のついた刺身のこと。三枚におろした身に皮を残して、皮がついとるほうを軽く焦げ目がつくくらいに焼いたら、氷水にサッと入れ、水気をとって薄切りにして食べる。
 
皮のコリコリっとした歯ごたえに皮目にある脂の甘さと焦げ目の香ばしさ。やきしも独特の食感、味わい、風味の合体が楽しめるのは旬のイシダイならではよ。
 

 
マダイやヒラメの皮というのは薄くてやきしもには合わん。イシダイでも一キロ以上あると、逆に皮がごつくなってしもうとるけん合わんよ。当然、旬をはずれれば身のしまりはないし、脂の甘みもない。
 
もし一キロ以上のイシダイが釣れてしもうてー、と笑いがとまらん人がおったら、半身は刺身に。ちょっと硬いぐらいに身がしっかりしとるけど、脂がのっとるけん十分うまいよ。たまにイシダイがどんな魚より好きという人がおるんよ。その噛みごたえがたまらんというてな。マダイやヒラメとかの身がしまっとる、というのとは全く違って、イシダイ特有のもんよ。イシダイはしっかりした皮も特徴やけん、捨てたりせんと、ちゃんと料理してな。ゆがいて、千切りにして刺身のつまにしてもええし、唐揚げにしてもうまい。香ばしくて酒のええあてにならい。
 
半身は鍋にしたらええよ。イシダイの身は炊くと魚の身というより、肉を食べよるような食感。そうやな、地鶏が近いかな。脂は出すぎんと、シコシコしとって、ひと噛みごとに繊細な味が楽しめる。
 
イシダイの鍋は水炊きに限るよ。
 
関東のほうでは鍋というと、寄せ鍋風とか、みそ入り鍋とかが多いやろ。北の方の影響が大きいんやろうけど。関西方面は水炊きが多い。これは食文化の違いで、どっちがどう、ということではないんよ。生まれて育った場所でずっと食べてきた味付けが「うまい」と思って食べていくことこそが食文化やけん。
 
うどんでも関東では真っ黒のしょうゆ辛いつゆ、関西ではだしベースの色の薄いつゆ、というのも食文化の違いやけん、いくら関西の人が関東で文句をいうても、関東の店のうどんのつゆが変わることはないと思う。最近の東京ではお隣の県のさぬきうどんが人気のようやけどな。ま、とにかく食文化のことはその土地その土地で受け継いできたもんがあるけん、大事にせんといかんと思う。
 
ただ、わしは旬のもんは、せっかく旬のうまい味があるけん、素材のそのままの味がわかるように食べたいと思うとる。中にはしょうゆやみそが合う魚もおるけど、とにかくなんでもかんでも調味料で味付けしてしまうのは、わしは好かん。
 


2013年12月29日