真っ白なイカの塩辛

 
わしは毎日晩酌をやるんやけど、冬場のしけたときにいちばん困るんは酒の肴がないことよ。魚がおらんことには酒は飲めんし、かといって酒を飲まんわけにもいかん。
 
それで日保ちのいい酒の肴をつくったろ、と思うてつくったんがイカの塩辛よ。
 
イカはいろんな種類がおるんよ。身が硬めでイカそうめんにして食べるしっぽが細長い剣先イカや、もちもちした食感のずんぐり大きなアオリイカ、背中に甲羅をもったしっぽのまあるいコウイカとか、三角ミミの赤い色したマツイカ(スルメイカ)とか、いくらあげてもきりないぜ。どれも形はもちろん、身の厚みも味も違う。
 
しっぽいうて、どこのことかわかっとる? 下足(げそ)のことやないんぜ。しっぽは下足とは逆のほうなんよ。げそを下の足と書くけど、ほんとはあれはイカの手やけんな。口は手の真ん中にあるし、目も手のすぐ上についとる。やけん頭が下足の側のほうで、しっぽは身の先のほうなんよ。こんなん漁師じゃ常識やけどな。
 
ま、それはええとして、イカにはいろんなんがおるんやけど、その中からわしが塩辛に使うんはミズイカ。大人になってもせいぜい十センチくらいであんまり大きくならんイカなんよ。形は剣先イカによう似とる。ここら辺の漁師でもたまに剣先の子かと間違えるくらいやけん。ちょっとしっぽが剣先より丸いかな。そうやな、日本海のほうでとれるホタルイカとよう似とるといえば、わかるかな。夏には身の袋の中いっぱいに卵がつまるんよ。煮たりゆがいたりしてまるごと食べると卵がしこしこして甘くてビールのええつまみにならい。
 
このミズイカの身は一、二ミリくらいで特別薄いんよ。塩辛にするイカの身はあんまりごついと味がうまくいかん。イカの味と塩とがマッチせん。塩辛は身の味と塩のまざり具合が命やけん。それに身が太いんは、あんまり上品やなかろ。酒の肴にするには。
 
ミズイカは下足を切って、身のほうを一枚に開く。そしてその身を一、二ミリぐらいの細さに切る。最初から細く切って漬けんと、塩がなじまんのよ。下足のほうはいっしょに漬けてもええけど、いぼがあるし、塩辛で食べるにはちょっと硬くて食べにくいけん、甘辛く煮て食べる。
 
塩加減はイカの量が十に対して、塩が0.6から0.7くらい。このときに気をつけんといかんのは、重さじゃなくて、体積で測ること。コップ一杯にイカを入れたら、そのコップの0.6から0.7分の塩、ということよ。百グラムに対して六,七グラムとは違うんぜ。これを間違えたら、味がおかしくなるよ。
 
この塩が六から七%というんは、イカの味がいちばんよう出て、塩気が気にならんちょうどええ割合なんよ。その代わり十日間くらいしか保たん。一ヶ月くらい保たしたかったら、塩を一割くらいの割合にしたらええよ。ちょっと塩の味がつようなるけどな。
 
塩を合わせたら冷蔵庫に入れて、そのまま三、四日おいておく。一、二日目は塩がイカにまだなじんでないけん辛い。塩は味付けするだけじゃのうて身をしめるために入れるんやけんな。三,四日たったらイカから余分な水分が出て、塩もなじんできて、イカの味とうまく混ざり合うんよ。
 
このミズイカの塩辛はな、塩辛やけど甘い。刺身では出てこん、イカの身が持っとる甘いエキスが出るんよ。塩の技よなあ。ほとんど塩気は感じんけん、飽きがこんよ。酒もすすむ。塩の味しかせんような辛いんは保存食やけん。酒の肴にはならんぜ。
 
これは見た目もきれいよ。生きとるときとおんなじくらい真っ白で、店で出したらお客さんは刺身と間違えるくらい。
 
普通に売りよるんが白くないのは、知ってのとおりミソを混ぜるけん、ミソの色がついとるんよ。わしはミソはいれん。味の好みもあると思うけど、ミズイカは身にしっかり味があるけんもったいない。ミソが勝ってミソの味しかせんようになるよ。それならミソだけ食べればえかろ。それにええ魚はな、ほんとにきれいなもんなんよ。どんな風に料理してもその魚の持っとる色気を楽しまんとつまらんかろ。
 

 


2014年12月18日