甘い甘い夏のウニ

 
ウニの旬は五月から八月のお盆ぐらいまで。それでも五月いっぱいは身がまだ細くて色もうすいし甘みも浅いんやけど、六月中旬ころからは身が太くなって甘みが増してくる。とくに七月に入ってからのウニは最高よ。オレンジ色がかった黄色が鮮やかになるんよ。ほんとに濃厚で、「このウニはうまい」とわかっておっても、ひと口入れるごとにいちいちその深い味に感心してしまうんやけん。大袈裟にいいよるんじゃないんぜ。ウニは十一月ころに産卵したら身がのうなって、冬の終わり頃から少しずつ栄養をつけて、五月に入ったころにやっと身らしい形ができる。やけん七月に入ったころは最高潮に栄養をたくわえとるんよ。あんまりに甘みが強すぎてほかの魚が食べれんぐらいじゃけん。
 
ウニそのものの味を楽しむのは刺身で食べるのがいちばん。でもウニの甘みがいちばん生きるのはウニ丼よ。ほかほかの白いごはんにごはんが見えんぐらいたっぷりのウニをのせて、わさびをといたしょうゆを少したらして食べる。ウニは寿司もうまいけど、わしはあたたかいそのままのごはんとのほうが相性がええと思う。まあ寿司の場合は酒のあてにもなるし、好みではあらい。
 
寿司といえば、寿司屋には一年中ウニがあるんよ。わしが食べよるんはムラサキウニやけど、こいつはさっきいうたように、お盆を過ぎたら産卵の準備に入って身に白い卵がつきはじめて、秋頃にはそれが苦くて食べれんようになるんよ。産卵後は身がのうなる。もちろん、北海道のバフンウニとか、九州のほうにおるガンガゼウニとか浅瀬におるケンの長い黒ウニとか、ウニにもいろんな種類があるけん、産卵の時期も違って、ムラサキウニとは違う時期に旬のやつを入れとるんやろうけど、それでも一年中はないと思うんよ。わしも何回かほかのウニを試したことがあるけど、正直、わしは夏のムラサキウニがいちばんうまいと思う。
 
うちの店は地元の魚しか扱わんというてやりよるんやけど、実は一回、夏場にウニがきれてしもうて、北海道のウニなら大丈夫やろうと思って仕入れたことがあるんよ。北海道のウニは北海道のウニの良さがあるんやけど、やっぱり違っとった。わしはムラサキウニの粒子が細かくて、表面がからっとしとって、もちろん乾いとるわけじゃなくて、口に入れたときの繊細な舌触りが好きなんよ。それ以来、どんなに漁が悪いときでも、伊予灘以外のウニや魚はいれんと心に決めたんよ。寿司屋の場合はどんなにまずくても、ウニがない、というわけにはいかんのかいな。
 
もうひとつ、ウニのことでいうておきたいことがあるんよ。ウニのことが嫌いという人がけっこうおるんよ。好き嫌いは人それぞれやけん、別に口出しすることではないんやけど、うちのウニを食べたら好きになる人も多いんよ。自慢したいわけじゃないんぜ。
 
ウニはやっかいなことに、上手に包装して冷蔵庫に入れとったら、二十日ぐらい保つんよ。ようもったら一ヶ月ぐらいはなんとか食べられてしまう。でもいくら日保ちがようても、海からあがって一週間以内には食べんと、風味もなにもあったもんじゃない。腐るわけじゃないけど日にちが経つと木箱の臭みと、ウニから出た汁がまじって臭くなってしまうんよ。もちろん、旬をはずれたウニも、食べれたもんじゃない。
 
もし、ウニが嫌いな理由がそういうことなら、もったいなかろ。知ってほしいんよ、ほんとうにうまいときのウニを。やっぱり、生きとっていちばんええんはうまいもんを食べることよ。わしが店をはじめたのも、うまいもんを食べてほしいからやけん。
 

 

ナマコでひと商売

三十年ほど前はわしにとってはナマコの時代やったんよ。毎日毎日、潜って潜って、ナマコを捕りよった。やけどそのころ、都会ではナマコがものすごい価値が高うてええ値をつけるのに、ここ下灘の市場では全然値がつかん。あんまり値に差があるけん、悔しくてな。それでなんとかならんもんかと考えたんよ。
 
ふつう、わしら漁師が捕った魚は地元の市場でセリにかけて、セリ落とした商人(仲買人)が水槽車で関西や東京に運んで中央市場でまたセリにかける。活きた魚は活きたまま運ばんと価値がのうなるけん、運送を自分でやるのは基本的にムリ。でもナマコの場合は袋に詰めて夕方の航空便で送ったらその日のうちに活きとるまま関西や東京に届けられる。つまり、地元におっても、商売ができる。まだナマコで商売する人もあんまりおらんし・・。よし、それならわしがやったろ、とな。
 
ただ問題はもうひとつあったんよ。漁師は所属しとる組合の管理する海域で漁をして、そこで捕ったもんはその組合の市場で売らんといかんときまっとる。わしは下灘の組合員やけん、下灘の磯場で捕ったやつは下灘の市場で売らんといかん。
 
そこでとなりの組合の磯場の漁業権を一年間の契約で買って、その磯場で捕ったナマコを送ることにした。こういう場合はよそで売ってもええと認められとるけん。でもわしひとりで捕る量はしれとるけん、さらによその船が捕った分をまるごと買って仕入れて関西や東京に送るようにした。
 
十一月から二月くらいまでは磯のナマコがええ値で売れてな。これはええ商売になったぜ。漁師するのがばからしいぐらいにもうけたけんな。
 
二月終わりころからは磯のナマコは少なくなるんよ。で、ちょっと沖のほうの砂地にいったら、ナマコの大きいやつがゴロゴロおる。わしらは「あおこ」と呼びよるんやけどな。磯に住んどる青いナマコとはまた種類が違うんぜ。こいつらは磯のナマコと比べると太いし身もごつい。やけん、そのままでは売れん。それでまた、どうにかならんかなと考えて、「あおこ」を加工することにした。
 
この「あおこ」は二月の終わりに卵をもつんよ。その「あおこ」の卵が、日本三大珍味のひとつ「このこ」。最近の若い人はあんまり知らんかなあ。「からすみ」は知っとるやろ? からすみはボラの卵でこいつも三大珍味のひとつ。「このこ」はからすみによう似とる。でももっと味は濃くて、磯の香りも強いんよ。
 
 作り方はまず、ナマコの腹を切る。そしたら、水といっしょに内臓やら中身がどばっと出てくる。その中に卵も入っとるけん、それを全部出してしもうて、内臓と卵を分ける。卵は卵らしい濃いオレンジ色をしとるけど、形はいわゆる卵形ではなくて、もずくみたい。とにかくちゃんとした形をしとらんのよ。こいつを集めてひもに吊して天日でだいたい十~十五日くらい干す。もずくをひもに吊すのをイメージしてもろうたらわかると思うけど、つるっとすべって下に落ちるけん、けっこう大変よ。それをなんとかうまいことまとめて吊すと三角の形ができる。これがしっかり乾いたら「このこ」の出来上がり。火で軽くあぶって食べる。
 
ナマコの量に比べて卵は少ないけん、高価なんよ。店頭で買ったら三角の一枚(約百グラム)が三千円くらいする高級珍味ぜ。
 
もうひとつ、腹に入っとった内臓(腸)。こいつが「このわた」、つまりナマコの腸の塩辛になる。
 
腹から出したばっかりの腸は中に砂とか老廃物がたまっとるけん、まず細長い腸を手でしごいて中のもんを出してキレイに洗う。腸はうすい黄色をしとって、砂とかゴミが入っとったら黒くなっとるけんすぐわかるんよ。そのあと、さらに塩水の流水でていねいに洗う。実はこれが大変なんよ。もみ洗いでもできれば簡単なんやろうけど、腸はデリケートですぐに切れてしまうし、傷を付けてもいかん。二十から三十分ほどかけて完全にぬめりがとれるまでうまく手の上に腸をすべらせるようにして洗う。完全な手作業よ。
 
味付けは全体量に対して少し多めの十%くらいを入れる。三、四日間つけて、出来上がり。
 
さて、腹を割ってすっかり空になってしもうたナマコ。もちろん捨てたりはせんよ。
 
実はこいつが一番の高級品。
 
腹の水も内臓も出してしもてひと回り小さくなったナマコを今度は大きな鍋に入れて煮詰め、さらに身に含んどる水分を出す。約四十分ぐらい煮たらきゅーっいうてナマコが鳴くけん、その鳴き声が聞こえたら火を止める。この時点で最初から五分の一ぐらいの大きさになっとる。それをさらに天日で干す。二十日から一ヶ月くらい、じっくり時間をかけてカラカラにする。出来上がったときは完全に水気がのうなって、海におったときのサイズの十分の一弱の大きさ。真っ黒で見た目も手触りもゴムみたいよ。
 
これが「きんこ」と呼ばれる高級食材なんよ。干しアワビがバカみたいに高かろ? それと一緒よ。めちゃくちゃ高い。大きさで特大、大、中、小、小びりと五段階に分けるんやけど、大きければいいもんでもなくて、「大」がいちばんええ値がつくんよ。それがキロ一万円から一万二千円くらいはしよったなあ。
 
 「きんこ」は炒め物とかチャーハンとか、中国料理によう使われるんよ。わしは中華はほとんど食べんきん、どう使いよるんか実際はみたことないんやけど、灰色で、見た目にはしいたけに見えらい。
 
わしが売りよった業者は中国にも輸出しとったんよ。その業者がたまにお土産でウーロン茶をもってきてくれよった。まだ日本ではあんまり知られとらんころやけん、変な味のお茶やなあと思って飲みよったよ。
 
今はもうナマコの時代は過ぎた。昔は「このこ」も「このわた」も食通の人がわざわざ高いお金を出して食べよったけど、最近はあんまり食べんようになった。珍味というのは、それほどうまいわけでもなかろ。珍しいというだけで。「きんこ」は今でも中国料理には使われとると思うよ。ただ手間がかかるけんな、これを作るんは。
 
この「きんこ」は、煮詰めてすぐがうまいんよ。そのまま食べてもうまいけど、きなこをつけて食べるとほんのり甘みがあってさらにうまい。ぷりんぷりんしとって、歯ごたえのあるわらび餅みたいやな。生のナマコとは全然違う特別な味よ。たまに今でも店の先付けに出しよるんよ。お客さんの不思議そうな反応が面白いわい。
 

アイシャドウをつけた鯛

 
十二月から二月にかけては魚がうまくなる時期。寒いけん身がしまっとる、というわけじゃないんぜ。四~五月に産卵する魚が多いんよ。その産卵のために十二月から二月は栄養をためとる時期じゃけん、おいしいんよ。
 
鯛もその中のひとつ。鯛は鯛というだけで年中ありがたがられる魚の王様やけど、この時期の鯛こそ王様と呼ばれてふさわしいわい。まず見た目がキレイよ。海の底からあがってきたその華やかな輝きというたら、漁師にとってはダイヤモンド以上ぜ。普通の人が知っとる鯛の色というたら赤やと思うけど、鯛はしめた瞬間にパッと赤色に変わる。生きて泳ぎよるときはピンク色しとるんよ。その鯛が何百尾もあがってくると、青い海がふわっとピンク色に染まってそれは見事。この瞬間は何度味わってもええもんぜ。
 
もちろん、いつもそんな大漁というわけにはいかんよ。どこにでもおるわけじゃないけん、潮や場所によってどのあたりに鯛がおる魚礁があるか経験と勘でみつけるんよ。鯛を捕るのはローラごちという漁法で、網をおろして三十分くらいですぐローラを回してあげる。
 
手前味噌になるけど、わしの兄貴が鯛捕りの名人でな。鯛の水揚げ量はこの町いちばん。年間で二~三千万円分ぐらいは捕るかな。普通の漁師の倍ぐらいよ。多いときにはひと船で一日に五百キロは捕ってくらい。ただ、魚はどんなにようけ捕っても死なせてしもうては意味がない。市場に出すまでどれだけ活かしておけるかも漁師の腕なんよ。大漁じゃというてぼやぼやしとったら鯛が暴れてウロコが飛んでしもうたり、傷がついたりするけん、手早く網からはずして船の水槽に入れてやる。そしたらすぐさま一尾ずつ浮き袋をつやして(つぶす)上手に泳げるようにしてやらんといかん。鯛は二十~五十メートルぐらいの深いところにおるけん、急に船の上に引っ張りあげられたら浮き袋がパンパンにふくれてしまうんよ。そのままではバランスがとれんでよう泳がんけん、死んでしまう。この浮き袋をつやすのがけっこう技術がいるんよ。浮き袋は内臓の近くにあるけん、内臓を傷つけんようにせんと。かといってバカ丁寧に時間をかけとれんけんな。
 
陸(おか)に戻っても気を抜いてはおれんぜ。船底にある船の水槽は走っとる間は海水が入れ替わるようになっとるけど、止まるとその流れもとまる。鯛は水が変わらんと死ぬけん、すぐに海に下ろしてあるはりだま(大きな網)に全部をうつす。それから市場に持っていくためにリヤカーに載せたバッカス(活魚を入れるプラスチックケース)に海水を入れてはりだまから素早くうつす。それを大急ぎで市場にもっていく。バッカスには五、六キロのふといので六、七尾。一キロぐらいので二十尾ぐらいしか入らんけん、これを何往復もする。
 
市場では(仲買人)が一バッカスずつ値をつけていく。ウロコがはげてないか、顔や表面がすれてないか、しっぽまで肉付きはええか、というところを見て口々に値を言って、いちばん高値を言うた人に落ちる。値を言えるのは一つの箱につき一回だけやけん、商人も目利きがようないとええ商売はできんよ。とにかく、ここで値がつくまで活かしとかんことには、死んでしもうたら値が三割は下がるけん。それに死なせた魚は値だけじゃのうて味まで落ちてしまう。同じ魚とは思えんほどに変わってしまうんぜ。それがいちばんかわいそうよ。
 
目の上に青いアイシャドウがついとる鯛があがったときは特別気を付けんといかん。キラキラ光る青いきれいなラインがスーッと入っとる鯛は値がはる。そういう鯛があがるんは、ここの市場でも一、二%くらいよ。ほんとは洲口(川が海へ流れてくる場所)におる鯛はこのアイシャドウが入ったものが多いんよ。洲口には川からきれいな水が流れてくるけん、きれいな水にはエサも多くて、鯛も立派に育つんよな。やけど洲口には魚礁がありすぎて網がすぐに破けてしまうけんリスクが大きい。やけん、そこで捕る漁師は少ないんよ。
 
このアイシャドーが入った鯛は確実に味がいい。旬というても、どれもが百点満点の味をしとるわけじゃないけんな。同じところに住んどってもよう動いとるやつとダラダラしとるやつでは身のしまりが違うし、ようエサをつかまえるやつもおれば、鈍くさいさつもおるんやけん。それがこのアイシャドーのある鯛は百発百中、百点満点の味をしとる。つまり、味がいい証のようなもんよ。もうひとつの証は刺身を見ればわからい。鯛の刺身は外側が赤くなっとるんやけど、その赤みが強ければ強いほど、赤い部分が厚ければ厚いほどうまいんよ。こいつのはキレイで深い赤色をしとるぜ。身はアメ色で表面はピカピカしとって、醤油につけたらパッと脂が浮くくらい脂のノリ具合がいい。口に入れるとそのしっかりと締まった身はしなやかな舌触りで、噛むごとに濃い甘みが出るんよ。
 
食べようと思って食べられるもんじゃないけど、うまい鯛に出会ったらちょっと板場に聞いてみて。青いアイシャドーがあったかどうか。
 

春を告げる魚たち

春は産卵の季節。冬の間は卵をつくるために、栄養をたっぷりとっとるけん、脂ののった、いわゆる旬を迎える魚が多いんよ。オスは白子が大きくなるし、メスは真子が大きくなっとるしな。それがいよいよ卵を生む!というころには卵に栄養をしっかり吸い取られてしまうけん、親のほうはすっかりやせてしもうて味も落ちる。正直、春はあんまりうまい魚がおらんのよ。
 
もちろん、魚という魚、全部が全部春に産卵してしまうわけではないよ。五月ぐらいに産卵するサヨリ、サワラ、キスなんかは、三月ごろに旬を迎える。漁師のあいだでは、「春を告げる魚」というたりすらい。
 
海面あたりを泳ぎよるサヨリを捕るのはサヨリ漕ぎ。二隻の船がひとつの網を持って海面をひっぱって捕るんよ。サヨリ漕ぎをやりよる仲間がサヨリをもってきてくれると、「おー、もうそういう季節か」と思わいな。太いやつは刺身で食べる。たんぱくで、それほど味の深い魚やないけん、糸造りにするんよ。いっぺんにまとめて食べられるけん、こまやかやけどしっかりした味になるよ。ちょっと小さいやつは、干物に。ほんのりと潮の風味が味付けされて酒の肴にええんよ。
 
料理屋では、サヨリを寿司ネタでよう使うやろ。春らしいあっさりした味やけん、季節感があるんやろな。ショウガであっさり煮ても春っぽい料理にならい。
 
砂地に住んどるキスは底引き網で捕る。キスというたら天ぷらがメジャー料理よ。キス以外でもアナゴとかドンコとか天ぷらがうまい魚はおるけど、それでも、「上品さ」いう点ではいちばん。臭みもぜんぜんない、サッパリした味よ。上手に揚げればいくらでも食べれらい。
 
家庭で上手に天ぷらを揚げるのは難しいというけど、ていねいに揚げたらそうたいそうなことではないんよ。家で失敗するのは温度の変化なんよ。小さい天ぷら鍋に欲張っていくつもネタをいれると油の温度が下がってべちゃっとなってしまう。できれば、食卓の上に鍋をセットして、自分が食べるやつをその場で衣をつけて少しずつ揚げながら食べる、という風にすると揚げたてを食べれるけんええんやけどな。衣のコツは料理の本とかにもよう載っとると思うけど、氷をいれるのがいちばん簡単。ふわっとさくっと仕上がるぜ。
 
キスは大きいのやったら、刺身もうまいんよ。ただ、そうとう新鮮やないと、刺身にできん。捕ってすぐ船の上で食べるぐらいやないといかんよ。家に帰ってからじゃ、もう遅い。身がぐにゅっとやおう(柔らかく)なってしまうけん。釣りをする人やったら、船の上で刺身にしてみたらうまいと思うよ。刺身にできんかったら、塩焼きもええわい。レモンをかけてあっさりと。「あっさり」がキスの味やけん。
 
回遊魚のサワラは止まってられんけん、網を夕方にしかけて潮の流れにのせて流しとって、夜中から朝にかけて網をあげる流し網で捕る。身がものすごい柔らかく脂ものっとって、マグロに似とる高級魚。好きな人はたまらん魚というやろ? 刺身でも焼きでもうまいと思うけど、実はわしはよう食べんのよ。魚の中でも食べれんのはこいつぐらい。実は、昔あたったことがあってな。それ以来・・。
 
もうひとつ、春といえば・・、の魚がコチ。他の季節は食べるような味をしとらんけど、菜の花が咲くころだけはおいしくなるけん「菜種コチ」とも呼ぶんよ。いま紹介した春を告げる魚はどれも身がやわらかいのばかりやったけど、こいつは身が硬いけん、刺身はうす造りに。ええときのコチはたんぱくな中に甘みがあるけん、ポン酢が合う。コチは骨がましい魚といわれとるけど、真ん中からしっぽにかけては小骨がないんよ。刺身にするんはしっぽのほうの身。前半分は素焼きにして「ひしおみそ」と一緒に食べる。身がようしまっとるけんな、ひしおみそぐらい濃い味が合うんよ。これは酒よりごはんといっしょに食べるのがおすすめ。しっかり食べてしっかり働けるぜ。
 
当たり前のことやけど、自然の中におるもんを捕るということは、季節によって、捕る魚も漁も食べるもんも変わる、ということ。自然に合わせるということよ。
 

ワタリガニ

 
わしは人のいうことはそうは気にせんほうやけど、ひとつ、どうにも納得のいかんことがある。
 
カニのことよ。
 
うまいカニというたらどのカニを思い浮かべる? たいがい出てくる名前がタラバよ。北海道とは何の縁のない人でも、それほど食べたことがない人でも、なにかとタラバに肩入れしとる。
 
タラバでなければズワイ。こいつは越前ガニ、マツバガニと名前を変えて日本海中に幅をきかせとるし、温泉とセットで旅行パックになっとることも多いけん、その分、ファンも多くなるんやろう。
 
それ以外に物知り顔で出てくるとしたら毛ガニ、ハナサキガニ。これも北海道の顔がきいとる。
 
食べもんには好みもあるし、食べ慣れとるもんがいいということもある。ほんでもこのことだけは、わしは自信を持って言える。
 
カニの中でいちばんうまいのは旬のワタリガニよ。
 
身のしまり具合といい、ジューシーさといい、他のカニらとは比較にならん。それになんといっても、その身の持つしっかりとした豊かな味。格段に違うもんをもっとる。
 
伊予灘で捕れるカニじゃけんというて、贔屓しとるわけじゃないよ。わしは日本中のカニというカニをそれが捕れる現地から活きとるまま取り寄せて食べたことがあるし、もちろん直接食べに行ったこともある。
 
それにこれはわしだけの意見じゃないんぜ。うちに来るお客さんで相当にカニに入れこんどる人がおるんよ。その人は北海道から、東北から、越前から飛び回って、その地でも有名な、うまいカニを食べさせる店と言われるところに食べに行きよる人なんやけど、その人がうちの店でワタリを食べたときに証言したもん。
 
「ワタリが日本で一番うまい!」というてな。この人が食べたんは一キログラム以上はあったけん、それは見事なワタリよ。
 
まあ一キログラム以上というのはなかなかお目にかかれんもんやけど、それでも旬のワタリを味わうには六百グラム以上はないといかんぜ。小さいのは味がようても、ボリューム的に物足りん。わかっとると思うけど、海外から入ってきとる冷凍の小さいやつは問題外よ。
 
タラバ派やズワイ派の人らはカニというたら足を食べるもんやと思うとるかもしれんけど、ワタリガニは胴中(カニの胴体の部分)を食べる。もちろん足にも身はあるけど、量は少ない。量で満足できるんは親爪ぐらいなんよ。でも六百グラム以上ある旬のワタリなら、胴中には身がぎっちりつまっとって中の殻からあふれんばかりの勢いよ。
 
それにメスには子が入ってきとる。カニも魚といっしょで産卵の準備期間中に旬を迎える。それが十一月末から二月に入るころまで。
 
この子がまたたまらんのよ。甲羅をぱかっと開けると裏っかわにオレンジ色の子がびっしりはりついとる。これを贅沢に大きくはぎとって口に入れる瞬間はなんとも幸せな気分にならい。
 
子の下にあるカニミソは産卵時期に限らずいつでも入っとるけど、やっぱり旬の時期はひと味違わい。苦みも臭みもまったくない、コクのあるキレイな味になっとるな。このミソを身に絡めてそのまま食べる。わしはこのミソをちょっと残しとって、甲羅に熱燗を入れて飲む。それは体が震えるほどの絶品よ。ミソはオスのほうがたっぷり入っとるけん、酒好きの人はオスがええんじゃない?
 
うちでワタリガニを食べるときは、焼きか蒸し。ワタリは鍋にはせんよ。だいたい、わしはあんまりカニを鍋で食べるんは好きじゃないんよ。殻の味がだしにつきすぎて、くさいわい。つけるたれも必要ないよ。身に数滴すだちを落とすぐらいよ。そのままで十分に完成された味。カニ風味というインスタントの食べもんがあるぐらいやけん、カニの風味ははっきりしとる。ほんでも本当にうまいカニの味は、カニ風味とは全然違うもんぜ。
 

夕日が山に隠れるようになる頃、ワタリガニの旬がくる。
 

キングオブタコ

 
明石の人には悪いと思うけど、タコはどこのタコでも一緒よ。もちろん明石のタコもうまいと思うよ。ほんでもタコの場合、どこで捕れたかはあんまり関係ない。明石のタコは、潮が速いところで捕れるけんおいしいというみたいやけど、潮が速いというんやったら関門海峡でも速いし、豊後水道も玄海灘も速い。潮が速いところなんか日本中、世界中、海のつながっとるところはどこにでもあるんじゃけん。伊予灘は比較的穏やかやけど、場所によっては潮が速いところはいくらでもある。来島(今治沖)では大潮のときなんか十ノット(約十八km/h)以上あるよ。ほんでも、「タコは来島」とは聞かんやろ。
 
タコはどこにでもおるし、だいたい一年中あがる。前は三月、四月と九月、十月は漁が少なかったけど、最近は九月と十月だけやな、タコが切れるんは。恐らく春と秋に産卵するけん、力尽きて死ぬやつが多くてあんまり捕れんようになるんやろうけど、それでもわしがタコかごをしよったときは、九月、十月も捕れよったんぜ。直径一メートル幅くらいの丸い四角いかごに、小さい魚を入れとくとタコが入ってくるんやけど、タコはタコも食べるけん、先に入っとるタコを狙って入ってくるやつもおる。量があがらん時期やけん、タコでもええ値がつきよったわい。産卵の時期というても、いっぺんに海中のタコが子を産むわけじゃないし、タコが一匹もおらんなることはないよ。
 
タコは魚とちがって、旬がない。一年中だいたい平均してうまいよ。それが、ほんの一時期、梅雨に入る前ころから、突然びっくりするくらい身がやおくてきれいなやつが出てくるんよ。誰が食べてもすぐわかるくらい、全然違う。そいつはゆがいても火が通ってないんやなかろかと思うくらいみずみずしい。こんときのタコは特別よ。刺身はもちろん、普段のタコやったら歯の悪い人はちょっと食べにくいくらいに硬くなる天ぷらにしても、こいつはやわらかくてジューシー。タコ酢なんかいつもは箸休めに食べる料理やけど、うまくて箸がとまらんようになるよ。
 
うちの店の若い板場なんか、うちに来るまでタコにそういうときがあるのを知らんかって、わしがどんだけ説明してもようわからん顔しとったんよ。やけん、初めてそのタコにあたったときは感慨無量の顔しとったわい。「これがあの、キングオブタコか・・」いうてな。
 
こいつが最初に出てから二週間でパタッとおらんようになるんよ。キッチリ元のタコに戻る。これだけはなんでかわしもわからんのよ。産卵も関係ないし、旬というには短すぎよ。水温の変化かもしれんけど、違うかもしれん。
 
見た目でも全然わからんし、出てくる時期も毎年ちょっとずつずれるけん、普通の人がこのタコにあたるんは運よな。うちの場合は店で毎日使うけん、たまたまわかるようなもんよ。
 
タコの中でも旬がはっきりしとるんは、イイダコや手長ダコ。こいつらは卵を食べるようなもんやけん、卵が入っとるんが旬よ。ゆがいたやつを頭からまるごと食べる。新米の炊き立てみたいな卵が頭にパンパンにつまっとるんよ。ほくほくしとって味も新米のような甘みがある。
 
イイダコは二、三月ごろに卵が入っとる確率が高い。手長ダコは六、七月よ。手長ダコってわかる? 韓国では活きとるぐにゅぐにゅしとるのをそのまま生で食べるやつ。こいつは甘みが特別強くて味が濃い。身もやわらかいしな。卵がおらんときでも、わしは甘辛くたいて食べるのが好きよ。
 
手長ダコを料理するときはひとつだけ気を付けといて。八本の足うち一本だけ、先が平べったくなっとるのがあるんよ。その部分の二、三センチくらいは切り落とさんといけん。もしそこを食べたらじんましんが出てしまうことがあるけん。マダコは大丈夫よ。手長もその一本だけ。
 
海のもんに限らんけど、そいつがいちばんいいとき、旬の味を知っとるけん、旬じゃない味がはじめてわかるんじゃない。イイダコや手長みたいに卵があるかないかみたいに旬の印があるんは少ないけんな。
 

網代は漁師の財宝

 
わしが日本がええと思うのは、四季があることよ。季節によって山の食べもんも変わるし、海の食べもんも変わる。つまりは、山のもんを食べたり、海のもんを食べたりしてわしらは季節を楽しめるやろ。時期がくるとちゃんとたけのこがでたり、まったけが出る場所があるように、漁師がちゃんとその時候に合った魚を捕れるのは、毎年同じ時候に同じ魚が必ずやってくる網代(漁場)があるけんなんよ。
 
自分が見つけたいい網代というのは漁師にとっては財宝みたいなもんでな。そこで漁をするときには、他の漁師にはバレんように朝早く出かけたり、他の船が見えたらわざと別の場所に移って漁をしたりするぐらい。企業の人でも、独自で開発したすごい研究を同業他社に教えるようなバカなことはせんやろ。網代も特許みたいなのがとれたらええんやけどな。
 
いい網代をどうやったら見つけられるか、というのは、もう、ただただ、勘よ。潮の流れや底のつくりなんかを頭には入れておくけど、データだけではやっぱり発見できん。ノーベル賞をとる人でも失敗からたまたまひらめいた、とかいいよるやない。でもひらめく人と、そうでない人がおるように、漁師でも、勘が働く人と、そうでない人がおる。ノーベル賞の人といっしょにするような大層なことではないけどな。当然、いい網代をようけ持っとる人ほどえらい稼ぎがあるし、持ってない人は人工の網代しか知らんわけやけん、それなりの稼ぎしかない。
 
人工の網代というのは、漁師が県に陳情して許可が下りたところに、古船を沈めたり、穴の開いたブロックを入れたりして、魚の住みかをつくっとるところのこと。そこはみんなに公表されとるけん、みんながそこで漁をするんよ。人工の網代は漁師にとって最低の補償にはなるけど、面白みはないぜ。それに魚は時候によって変わっていくけん、年中そこで魚が捕れるわけじゃない。自分の網代を見つけられる人は、ちゃんと時候ごとの網代を持っとるんよ。
 
さてその大事な網代、何の目印もない海の上で、どうやってその位置を覚えるかが問題。浮きで印をつけたらそれこそバレバレやろ。
 
そのとき、山を見るんよ。網代のある自分の場所を起点にして、正三角形になるように山のほうにあとふたつの点を探すんよ。そしてそのふたつの点のある風景を覚えておく。ひとつの点をつくるときには必ずふたつ以上の形を覚えておかんといけんよ。
 
例えば、右手の山に一本突き出た木があるとする。さらに木の近くの山小屋の形を覚えて、木と山小屋が同じように見える点をひとつとする。左手も同じようにしてな。そうしてつくった三角形の場所というのは、海の上に一点しかないんよ。言葉で説明するとわかりにくいかもしれんけん、一回、屋上にでも上がって、自分の位置と左右に見える二点で三角形をつくってみたらすぐわからい。ちょっとでも立っとる位置が変わると、つくった点の風景が変わってしまうはずよ。
 
こうして目で記憶して、頭で記憶する。木や小屋とか、目立つもんがありゃわかりやすいけど、場所によってはただ山が見えるだけ、島が見えるだけのところもある。そういうときは山のでこぼこした形や島の形を利用するんよ。わしは五十から六十ぐらいの網代を持っとるけど、全部頭に入っとる。兄貴は恐らく百ぐらいは持っとるんやないかな。前にも言うたけど、兄貴はこの町いちばんに稼ぐ漁師やけんな。そりゃ、漁師は記憶力がよからんとできんかったんぜ。
 
中には帳面を持っていって、山の交じり具合とか、島と島のくいあい(見え具合)とかを一生懸命つけとる人もおったけど、そういう覚えの悪い人はだいたいが人工の網代専門。自分の網代をよう見つけん人よ。
 
最近はちょっと事情が変わってきとって、記憶力のないアホでも漁師をやれるみたい。いまごろの船はほとんどがロランシーという機械を積んどるんよ。ロランシーというのはカーナビみたいなもん。衛星で海の上でも、自分の船がどの辺りにおるかがわかるようになっとる。やけん、網代を見つけたらロランシーに印をつけておけば機械が覚えてくれるんよ。
 
わしは持ってないよ。別に機械が嫌いというわけではないぜ。魚群探知機は積んどるんやけん。どうもロランシーはある程度の場所はわかっても、五十から六十メートルほどはズレてしまうらしいんよ。山を見て覚えるのは正確やけん、そのほうがええと思とるだけよ。
 
それに大事な網代のことを機械に頼ってばっかりではいかんとも思うぜ。万が一壊れたらそれですべてパーやけんな。まだ今は山を見れる人がおるけんええけど、山の見方がわからん若いもんばっかりの世代になって、みんながみんな機械頼りじゃ勘も働かんようになる。それこそ網代そのものを見つけられんようになってしまうかもしれん。網代のない漁師なんか、ただの船持ちぜ。
 

春の味・ワカメの新芽とネバネバ…

 
春になると、たけのこやたらの芽、わらびにぜんまい、つくし・・といろいろな山の菜が芽をだしてくるやろ。海もおんなじでな、もぐりをしよると三月に入ったころ、岩や石に根をはったワカメやひじきの新芽を見つけるんよ。
 
正真正銘、天然のワカメ。最近は養殖がほとんどで天然のワカメを食べようと思うたら、自分で採るしかないけんな。
 
ワカメやひじきらの海藻は陸の植物とおんなじで、太陽の光がないとよう育たんけん、だいたい三から五メートルのところに出とる。たけのこなんかようわかるけど、まだ春になりきらんころのは柔らかくて新鮮でうまいやろ。ワカメやひじきの新芽もすごく柔らかい。わしはとくにワカメが好きでよう食べるんよ。
 
ワカメは根の上についとる根かぶのところから芽が出てくる。芽が十センチくらいに伸びたぐらいが新芽。それ以上伸びたら、新鮮さがのうなるよ。桜の開花といっしょで、その年ごとの気候で伸び始める時期が変わるけん、気をつけておかんとちょっと見なんだら、すぐ伸びてしまうんよ。
 
採るときは、根かぶをとってしまわんように気を付ける。この根かぶは残しとったら、二番、三番とまた芽が出てくるけん。
 
この新芽は、ほんとうに「新鮮」という言葉そのまんまの味よ。ほんと、春を食べよる気がすらい。このワカメの新芽をマヨネーズにつけて野菜みたいにたっぷり食べるのが好きなんよ。もちろん、ワカメの王道の食べ方、吸い物に入れても風味がええよ。娘の東京のともだちが遊びにきたときに、吸い物に入っとるこのワカメに驚いとったな、「味がすごい。しかも肉厚」というて。天然のワカメ自体、そうは出会う機会がないやろうし、新芽なんか食べたらそりゃ、全然ちがうと思うぜ。
 
この新芽は短いけんもぐりで採らんとムリ。でも、十センチのちょっとしかない新芽をとるのは面倒やけんな。もぐり漁をしよる人でも採りよる人はおらんぐらいよ。この辺の漁師が採るんは浅瀬に入って採れる三十から四十センチくらい伸びたやつ。わしも面倒ではあるんけど新芽はやっぱ味がええけん、もぐらんわけにもいかんのよ。うちは店でも毎日使うけんな、一年分をこの時期に採っておく。だいたい二日間で四百キロぐらいかな。ワカメはほっといたらどんどん伸びるけど、あんまり大きくなったら色も悪いし硬くなってしまうけん。
 
実はもうひとつ、ワカメにはうまい部分があるんよ。根かぶ。さっきなるべく採らんようにと言うたところなんやけどな。ここを採ったら、二番三番が出んようなるけん、本当は残しておくんよ。それがあるとき、うっかり採れてしもうたんよ。食べる習慣がないけん、ふつうなら捨ててしまうところやけど、ちょっと気になってな。
 
せっかくやけん、食べてみたら、うまかった。
 
形はバラの花がもうすぐ咲きそうになっとるぐらいに、肉が重なりあっとる。大きさもバラの花とおんなじぐらいよ。
 
色は明るいグリーンで初めて見る人はまさかワカメとは思わんかもしれん。食感はコリコリして、ものすごいネバネバなんよ。箸でなかなかつかめんのやけん。これを刺身感覚で醤油につけて食べる。
 
とにかく磯の風味が強くて、歯ごたえがええんよ。ワカメは吸い物の具にしたり、魚の刺身のつまにつこうたりするけど、この根かぶなら、メインでいける。そのくらい主張も強い。一回食べたら忘れられん味よ。栄養価のことはようわからんけど、たぶんネバネバしとるところなんか、栄養があるんやないかな。
 
最近は町の人も浅瀬に入ってワカメを採りにきよるけど、根かぶもいっしょにもいでしまいよるけん気を付けてな。でももしうっかりとれてしもたら、ちゃんと捨てんと刺身にして食べてみて。ただほんとは、漁業権がないと、ワカメ自体採ったらいかんのぜ。
 

撮影疲れ…

 
先日、お店にお笑い芸人の田中さん(アンガールズ)とモデルの森星さんが来られました。
 
「そうだ旅(どっか)に行こう」  (テレビ東京)という番組の撮影だったんですが、お二人ともタレントオーラ全開で、田中さんはテンション高いし、森さんはビックリするくらい細いしで、ただただ圧倒されました。
 
ふぐ刺しや、おこぜのから揚げを注文してもらったんですが、撮影が終わっても美味しそうに食べていたので、僕としてはなんか安心しました。あとスタッフさんも地元の郷土料理の「ひゅうが飯」を食べて好評をいただいたので双海まだまだいけるなあ、とこれまた安心しました。
 

おこぜの唐揚げ
 

ふぐ刺し
 
この撮影と同じころにBS日テレの「ポストのある日本の風景」という番組が下灘駅で撮影ということで、そちらでも漁師弁当を注文していたただき、配達するところを放送してもらうそうです。
 
BSもテレビ東京もうちの家では見られないですけど、見た方が双海や魚吉に好感をもってくれたら幸いです。
 
『そうだ旅(どっか)に行こう』(テレビ東京)

~奇跡の無人駅!急に降りたら・・・究極の絶景&秘境温泉ベスト3
2015年2月17日(火) 夕方6時57分~夜7時54分
▽モデル・森星とアンガールズ田中は、無人駅の(秘)デートスポット巡りで、まさかの展開!
 
『ポストのある日本の風景』(BS日テレ)

毎週月曜 夜9時54分~10時00分 3月放送予定
 

「漁師弁当」ご予約承ります。詳しくはこちらから。

うまいものにはトゲがある

 
生きとる魚というのは慣れんかったら、なかなかよう触らんやろ。ようテレビで釣りなんかやっとって、若い女の子が魚を釣ったはええけど、「きゃー。」いうて竿を振り回しよるのを見かけらいな。まあ確かに魚というのはたいていのもんがトゲがついとるけん、ちょっとでも先が刺さると痛いけんな、わからんでもない。
 
漁師はどんな魚でも触り方はわかっとるし、多少トゲが手にあたるぐらいじゃあ、なんてことない皮の厚い手になっとる。それに網から魚をはずすのにいちいちそんなの気にしとったら仕事にならん。
 
ほんでも漁師を長いことやっとると、極極たまにやけどものすごい痛い思いをすることがあるんよ。網にそいつがおると気づかんと、いつものように魚を投げとるとプスリ。
 
わしの場合はだいたいが海の中よ。潜りをしよるとき、そこにそいつがおるとはわからんと手をもっていってしもうて刺されてしまう。
 
もうおわかりかと思うがそいつの名前はオコゼ。上から下まで黒々しとって、海の中では敵から身を守るために周りの岩と同じような肌合いをして岩陰に隠れとるけん、よっぽどジーッと見よらんとそうは気づかんのよ。レジャーダイバーみたいに観察するために海に入っとるわけじゃないけんな。
 
刺された瞬間は「あいたっ!」という程度やけど、五分・・十分・・と時間が経ってくると強烈な痛みが襲ってくる。「ズキズキ」なんてどころの騒ぎじゃないぜ。あまりの痛さに一生懸命に大きく息を吸わんといけんような呼吸困難になる。刺されたもんにしかわからん痛みよ。
 
こうなるとすぐに引き上げて医者に行って注射をうってもらう。このとき、トゲが刺さった分だけの注射をうつんよ。いちばんひどいときは手のひらに四本刺されたけん、四本の注射を手のひらにうった。
 
注射をうてば痛みはいっぺんにひいていく。見事なぐらいにな。よっぽど強い注射なんじゃと思うぜ。その後は腫れがひくのに二日ほどかかるけど、痛みは一日で治る。この辺は漁師が多いけん、医者もオコゼ用の注射をちゃんと準備しとるんやと思うんよ。都会の病院ではめったにないやろうからな、オコゼに刺されたというて来る人は。調理するときに刺されるようなマヌケな料理人もおらんやろうしな。
 
オコゼのトゲは猛毒でな、医者がいうには「刺されどころが悪いと毒がまわって死んでしまうこともある」らしい。幸い、この辺の漁師にオコゼに刺されて死んでしもうたやつはおらんけどな。
 
猛毒というても、オコゼはトゲさえとってしまえば旬にはうまい魚よ。オコゼ好きは本当にオコゼ一筋でな、うちの店にもそういうお客さんがおって、毎回オコゼを頼んでくれるぐらい。ただ、旬をはずすと食べれる魚じゃないけん、秋冬限定よ。
 
わしのおすすめは刺身。他の魚といっしょで、旬を迎えると身がほんのりとアメ色がかって透明感が増してキレイよ。
 
カワハギみたいに肝は細かくたたいて、ふぐみたいに身をうす造りにしてポン酢で肝とあわせて食べる。しゃんとした食感に肝のほんのりした甘みとポン酢のサッパリ味が合うんよ。
 
「オコゼといえば唐揚げよ」という人がおるかもしれんな。確かに料理として全国的に有名なんは「唐揚げ」で人気があるんもわかるよ。オコゼの皮は揚げるとパリッと香ばしくて甘みが出るんよ。でも唐揚げが好きな人ならなおさら、身は刺身にしといたほうがおいしいオコゼの唐揚げが食べれるぜ。 
 
刺身にした残りのアラを唐揚げにするんよ。硬い大骨のある頭や背骨は先に包丁の背でたたいてつぶしておいて、カリカリになるくらい強めに揚げる。こうすると、複雑な頭周りの骨も、背骨もヒレもきれいさっぱり、跡形もなくバリバリっとぜんぶ食べることができる。
 
それが身ごとまるまま唐揚げにするとしたら、第一に身の具合を考える。カラッと揚げるのは当然やけど、頭がカリカリになるぐらいに強く揚げたら、身のほうがパサパサしてしもて食べれたもんじゃないけん。その前に、頭をたたいてつぶしておくのが難しい。料理としての見てくれが悪いやろ。でもそれをやっとかんと、いくらカリカリに揚げたとしても、口に入れたら痛いぐらいの硬さは残る。背骨だけはさばくときに別に取り出して、アラでやるのと同じようにしっかり揚げて骨せんべいにできるけど、オコゼは頭の比率が大きいけんな、ここをどう食べてやるかが食べるほうの大事なマナーよ。もちろん、身や皮をしゃぶって骨は残すのでもええけどな。
 
あんまり唐揚げが好かん人はアラをみそ汁か吸い物にしたらいい出汁がでるよ。
 
オコゼは煮付けもうまいんよ。いつも同じ料理法やったら一回試してみて。皮のうまみと、淡泊でぷりっとした身があっさりした味付けで生きてくるけん。
 
ここまでの話は黒オコゼのことぜ。大きいヤツは四十センチくらいにもなる。釣りしよるときにたまにかかったり、海水浴で刺されたりするのは赤オコゼ。こいつは浅いところの砂地とか藻の下あたりにおって、どんなに大きくなっても五センチぐらい。ほんでもこの赤オコゼも食べれるんよ。まるごと唐揚げにして頭からバリバリっと。けっこういけるよ。