ウニ
夏
ウニがご馳走のワケ
- 特別手間暇がかかっとる
- ウニを採るには潜ってひとつひとつ採るしかない。ウニは石の下におるけん網とかではかからんけん。わしが採るムラサキウニは海の底が砂地で、そこにポツンとある石の下におるやつが身が太くてええウニよ。底が石ばっかりのところにおるやつはなんでか、ようない。身がうすいか、小さいか、なんよ。
海水浴をしよるような岩場で見かけるウニは、黒ウニ。ケンが長いやつな。あいつも割れば身が入っとるけど、味がなくてうまくない。
ウニはちょっと値が高くて、普段に食べるというより、特別なときのご馳走という感じやろ。それは人が潜ってひとつひとつ採ったもんやから、というのもあると思うよ。人が一回で採れる量は限界があるけん、網でごそっと捕れる魚とはちょっと価値が違うんやないかな。それにウニは食べるようにするのに特別手間暇がかかっとるんよ。
潜って採ってきたウニはそのままイガイガの殻ごと売っても金にならん。栗といっしょよ。でもウニの身は栗の実を出すよりずっと大変なんぜ。 - ウニの身は五つと決まっとるんよ
- まず、殻を割る。どうやるかというと、真ん中にあるウニの口に長いステンレスの棒をふたつ突き刺して、てこの要領で、ふたつにきれいに割る。これにはコツがあって、棒を刺す力具合が弱いと殻に穴が開いてしまうだけで割れんし、力加減がうまくても、上手に真ん中に刺さんと割れ方によっては身がつぶれてしまったりもするんよ。身をつぶしてしもうたら潜って採ってきた苦労も水の泡やけんなあ。うちの子供が小学生のころはウニ割りの名人やったんよ。ウニの季節は学校帰りに必ずこのウニ割りをやらせよったけん。最近ではウニを割る専用の道具ができて、よいよ簡単にきれいに割れるようになっとるみたいじゃけどな。
割ると殻の内側に沿うようにして黄色い身がくっついとる。ひとつのウニに身は五つ。タコの足が八本なんといっしょで、ウニの身は五つと決まっとるんよ。
次にそのウニの身を出す。半分になったイガイガのウニの殻を片手でもって、もう片方の手で平らなスプーンみたいなもんで中の身をそいでいく。身を崩さんように丁寧にな。このときに身だけじゃなくて、内臓や身のまわりに黒いカスがついてくるけん、とりあえずこの段階では、身とカスは全部殻から出して、大きめの四角いバットに入れておく。
面倒なのはこのあと。今度はパットに移した中身からカスとウニの身を分けていく。身しか見たことのない人には想像つかん状態やと思うけど、身の裏に黒いカスがくっついとるんよ。とり残しがあるかもしれんけん、今度食べるときに裏を見てみて。これを箸でひとつずつとっていかんといけん。これがほんとうに細かい作業でなあ。箸を器用に使えんとカスをとるときに身をつぶしてしまうけん集中よ。ほんと、肩もコチコチになるぜ。
小さいカスもきれいにとって、やっと身だけになったところで、最後に箱に並べていく。
これも柔らかい身をつぶさんように丁寧に箸でひとつずつつまんで、キレイに並べていくんよ。並べ方にもコツがあって、隙間ができんように箱の底が見えんようにひとつひとつの身の大きさを調節しながら上手においしそうに並べる。ふたを開けてみてスカスカやったり、身の並び方がバラバラやと、いっぺんに「よっさんところのは悪いウニ」というレッテルがついてしまうけんな。 - ひとつひとつのウニで家族は生きていける
- こうやってやっと市場に持っていけるんよ。わしが採るんはだいたい一日に箱七十から八十枚くらい。一枚につかうウニは六つくらいやけん、ウニは四百個から五百個とりよるということになるな。
このウニ詰め作業は港の防波堤で家族そろってやるんよ。わしが漁から帰ってくる時間はちょうど子供が小学校から帰ってくる三時ごろ。子供は遊びにも行きたいやろうけど、遊びに行かすのはウニ詰めが終わってから。そりゃ、機嫌ようはなかなかやらんよ。ほんでも、こうやってひとつひとつのウニで家族は生きていけるということが自然と伝わるもんよ。どんなにすねとっても、ちょっと力を入れたらつぶれてしまうウニの身を大事に大事に扱うんやけん。
さて、中身を出してしもうた大量のウニの殻。自然に戻るもんやけん、海に捨ててもええもんやけど、これを農家の人が欲しがるんよ。
この殻を二週間ほど夏の天日にあたらせて干しておくとカラカラに乾くけん、それを金槌でたたいて粉々にする。この粉を畑にまくと、作物がおいしくできるんやと。つまり、肥料になるんよ。殻に海の栄養がつまっとんかな。こいつを蒔くと、土が肥えて、どんな作物も甘く立派に実る。スイカやかぼちゃ、トマトに大根。ミカンに伊予かん。どんなんにでも合うみたいよ。
ウニが旬の季節は毎日のようにウニを採りよったけど、殻は次々に農家の人がとりに来て、全部のうなるんやけん。よっぽどええ肥料なんやと思うよ。ウニは全部利用できるし、お礼にできた野菜やくだものを持ってきてくれるし、持ってきてくれたもんもうまいし、自然のもんはやっぱりようできとらい。